それからあと、やたら酒ビンが並び始めた。
私は、「そんなチャンポンに飲むといけないんじゃない」とオロオロした。
朋子さんは、
「こんなのどってことないわよ。私なんか、この年には、三日酔いってのやってたからね。
ホラ、お前、ワダ?ワダ飲もうよ」
「いや、すいませんす、オバサンはこわいなあ」
「こわかないわよ、ほら、ワダ、お前の髪の毛わざとこうしているの?
柄をつけたら、壁洗うブラシになるやんか」
「これ、苦労してこういう型にしてるんですヨ。なかなかつらいもんあるんすよ」
─中略
突然マサノリが「オバさん泣かしてやるぜ」と叫んで
「アンダルシアにあこがれて」をうたいだした。私はすぐ泣いた。
チンピラが彼女をメトロのホームに待たせている間に、ヤクザに撃たれて死んでしまうのだ。
死にながらチンピラは、
「ホームのはじで待ってる、かわいいあの子に伝えてよ。必ず行くから待ってろよ」
と絶叫するのだ。私はオンオン泣いた。
★ふつうがえらい/佐野洋子★
■佐野さんが、佐野さんのお友達の「朋子さん」と、 自分の息子の友達たくさんと一緒に飲んでいる時の話。 「マサノリ」も佐野さんの子供の友達。
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