てんてんとつづく足あとを目で追っていきますと
うさぎが殺されたのがわかりました
まっすぐつづくのはきつね、と教えてもらいました
そろってぱたりそろってぱたりとつづくのはうさぎ
「そろってぱたり」と「まっすぐつづく」がまじわって
「まっすぐつづく」になっていました
血はみあたりませんでした
「そろってぱたり」は暴れもしません
わたしは裸足です
靴をぬぎ靴下をぬぎました
なにもかもがむきだしになりました
あなたはそれを見ます
靴と靴下をぬいだら
わたしの足ゆびには毛が生えていました
足ゆびのまたから血がでていました
あなたはそれも見ています
わたしは字をかいています
あなたはそれも見ています
わたしはそれを見せたいと思っています
あなたも字をかいています
わたしはそれを見ています
なんてうつくしい字をかくおとこだろう
とわたしはおもっています
なんてうつくしい
おとこだろう、おとこたちだろう、おんなたちだろう
あなたは字をかきおえてそれをしまいこみます
わたしにはみせないつもりらしい
あなたは靴をはいて
雪の原を横切りに出かけます
わたしはここに残ります
雪の原を「そろってぱたり」なら
「まっすぐつづく」の取られる運命
それはきっとあたりが明るくなる
朝のこと
★雪/伊藤比呂美★
■高橋源一郎「文学がこんなにわかっていいかしら」に載ってたもの。
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