絵や版画やそういったものを好きになれる能力のある人たちが、
それを作った人間についてなにも知らずにそうすることはめったにない。
この状況も、やはり科学的というよりは社会的です。
どんな芸術作品も、ふたりの人間のあいだの会話の半分で、
だれが自分に話しかけているのかを知ることがとても参考になる。
会話の相手の彼または彼女はどういう評判の持ち主か?真剣なのか、宗教的なのか、
悩んでいるのか、好色なのか、反抗的なのか、誠実なのか、おふざけ屋なのか、
いわゆる名画が、だれも全く知らない画家の手になっている例はめったにない。
フランスのラスコーの壁画さえ、それを描いたのがだれであるにしろ、
その人物の生活についてはけっこういろいろのことが想像できる。
あえていうなら、どんな絵にしても、見るものの心にある特定の人物の連想が生まれないと、
真剣な注意をひくことができない。
もし兄さんが自分の絵に作者名をつけたくないが、
検討の価値のあるものだと他人に思わせたいなら、このゲームは成立しない。
絵というものは、それが持つ絵画らしさでなく、人間らしさによって有名になるのです。
★タイムクエイク/カート・ヴォネガット★
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