わたしの叔父、アレックス・ヴォネガットは、
ノース・ペンシルヴァニア通り五〇三三番地に住む、
ハーバード出身の生命保険の外交官で、わたしにとても重要なことを教えてくれました。
物事がほんとうにうまくいっているときに、それを見逃さないようにするべきだ、と。
叔父がいったのは、大きな勝利ではなく、ごく単純な出来事です。
たとえば、暑い昼下がりに木陰でレモネードを飲むときとか、
近くのパン屋からいい匂いが漂ってきたときとか、
獲物のあるなしを気にせずに釣りをするときとか、
隣の家でだれかがとてもうまいピアノを弾いてるのを聞くときとか。
アレックス叔父は、そんな至福の瞬間にはかならず声に出してこういえ、とわたしに教えました。
『これがすてきでなくて、ほかになにがある?』
★タイムクエイク/カート・ヴォネガット★
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