解散するまで従姉兄たちがビートルズのレコードを買いつづけていたことは間違いないけれど、
ただの記憶というのを超えて全身が反応するくらいの深さで私が憶えてるのは
手のこんだ音楽に移っていく前のビートルズの方だった。
歌を作って歌うことを通してどんどん内面的に成長して
世界の出来事とも関わるようになっていったビートルズのファンにふさわしい政治的な関心を
従姉兄たちが持っていなかったことは知っていたけれど、その理由を私は、
自分の親の葬式の席でまわりの人たちに聞こえるような声でわざとバカバカしい話をして
笑わなければ気がすまないような従姉兄たちの性分によるもので、
レコードを出すごとに内面化の度合いを増すビートルズの変化を「疑わしい」
と感じていたという風に漠然と想像していたのだけれど、
もっとずっと単純に、音楽の趣味の問題だったのではないかと思った。
だから私にとってビートルズといったら初期ビートルズのことで、
「あの娘おまえのこと好きなんだぜ。イェーイェーイェー」
みたいな歌が、みんな揃って賑やかにしていたこの家のことだった。
★カンバセイション・ピース/保坂和志★
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