宿題

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2003年07月16日(水) 玄笑地帯/筒井康隆
書斎は二階にあるのだが、ここで仕事をしているとよく窓の外へキジバトが来て鳴く。

キジバトは普通「クック・ルック・クー」といって鳴くのだが、これは聞く人によって

いろいろに聞こえるそうである。おれにはなんと「ツツイ・ヤスタカー」と聞こえるのだ。

まさかと思い気のせいだ気のせいだなんでもないなんでもないと思うのだが聞けば聞くほど

「ツツイ・ヤスタカー」と聞こえる。ついには、あまりにもはっきりと「筒井康隆」

とぬかしやがったので仰天した。背筋をさっとのばし、立ちあがり、ただちに階下へおりて行き、

食堂にいた妻と息子に「今、上でキジバトが筒井康隆と言っただろう」と尋ねたが、

ふたりは気ちがいを見る眼でおれを見ただけである。


約十分後、今度は電話をかけてきやがった。早稲田大学生活協同組合の職員の声色を使い

「筒井康隆さんですか」と言うのである。「あなたはキジバトですね」というと「は」などと、

とぼけたりしている。「さっきとんで行ったキジバトでしょ」「わたしは早稲田の生協の」

「いやキジバトです」こういうことがあり、最近はだんだん世間が狭くなってきた。

たいていの人が「キジバトは電話しない」と言うのだ。

しかし中には「実はわたしにもそれに似た体験が」という人もいる。おれはこういう人とは

仲良くするようにしている。話をしていると面白いし、時おりはけけけけけなどと笑い、

また喧嘩をしたり、時には殺しあったりもする。と、ここまで原稿を書いた時、

妻が書斎に入ってきてこれを読み、なぜか、さっと顔色を変えた。あなた。

こういうことを書いてはいけませんわと言うのである。なぜいけないのかよくわからないが、

わからないなりにキジバトの話は中断し、別の話を書く。さて天皇陛下のことであるが。

とここまで書いたら横でじっと見ていた妻がまた顔色を変えた。


★玄笑地帯/筒井康隆★

マリ |MAIL






















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