北宋社版『少年とオブジェ』を、北宋社の堀切さんから貰ったのは、二年くらい前のこと。
以来、くり返し愛読する本になった。
その後、やってきた堀切さんは「原平さんの本は六百部しか売れなかったです」と、
困った顔もしないで言っていた。
六百人という人間が、ずらりと整列している有様を頭に浮かべ、
とても大勢の読者だと私は思ったが、本六百部というのは売行きがわるい方なのだそうであった。
私は何となく嬉しくもあった。
いい景色の場所や、いい食堂は内緒にしておきたい、ケチな気持ちである。
今度角川書店の文庫本となる。大勢の人に読まれる。
めでたくて嬉しいことだが、何となくつまらなくもある。
★少年とオブジェ 解説/武田百合子★
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