成程買ってみないことには解からない。
この(骨董の)世界では買うという事が唯一の行為である。
それを包んであった布には「これを持つものには災いあれ」と
あきらかに青山(二郎)さんの字で書いてあり、彼の執着の程が恐ろしいほど迫ってきた。
いつかジィちゃん(青山)を出しぬいてやろうと思い、一人歩きをして、
気に入ったものを買い、自慢してみせると、「フン、これは昨日僕が売ったものだ」
そういうことが何回もあった。
―中略―
未だに私は青山二郎の世界から足が抜けないし、抜けなくてもいいと思うようになっている。
それから三年ほど経って、彼(青山)はそのぐいのみを壷中居へ持って行き、
今度は五万円で買えという。
「だってあなた、まだお勘定も済んでませんよ」
「俺が三年間持っていたんだから五万円に上がってるサ。ありがたく思え」
といわれ、壷中居はたぶん言い値で買ったのであろう。
真物の中の真物は、時に贋物と見紛うほど危うい魅力がある。
どきどきさせるものだけが美しい。
★白洲正子の世界/白洲正子★
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