テディは初めて相手をまっすぐに見やって「あなた詩人ですか?」と、言った。
「詩人?」と、ニコルソン。「いや、とんでもない。大違いだ。どうしてそんなことを?」
「よく分かんない。詩人というのはいつも天気を個人的に受け止めるでしょう。
感情のない物にいつも自分の感情を注入する」
ニコルソンは微笑しながら上着のポケットに手を入れて煙草とマッチを取り出した。それから
「むしろそれが詩人の十八番じゃないのかな?」と言った。「詩人はもともと感情を扱うもんだろう?」
テディにはこれが聞えなかったのか、それとも聞いてなかったのか、彼は放心したように、
運動用甲板の上に対をなして立っている二本煙突か、その向うの方を見つめている。
ニコルソンはいささか苦労しながら煙草に火をつけた。多少北からの風があったのである。
彼は前かがみになった身体を起して言った。
「きみのおかげで学者先生たちはすっかり困惑してたとか――」
「<やがて死ぬ景色は見えず蝉の声>」
だしぬけにテディは言った「<この道や行く人なしに秋の暮>」
「何だい、それは?」微笑しながらニコルソンは尋ねた「もう一度言ってくれよ」
「二つとも日本の詩。感情的な要素がたっぷりという材料はほとんど使ってないでしょう」
★テディ/J.D.サリンジャー★
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