文は人なり、という言葉がある。
特に日本語の文章は、字という記号を使って正確な伝達を旨とするばかりでなく、
感性を凝らして勘でひらりと字句を掬いとっていくような趣があるから、
なおのことパースナルになる。
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「百合子、面白いか、嬉しいか」
「面白くも嬉しくもまだない。だんだん嬉しくなると思う」
この返答がすごい。
人はなかなか自分の心に即した簡略な返答を返せないものである。
そうしてその有様をすらっと文章に掬いとってしまうところがすごい。
すごがってばかりいるようだけれど、だって仕方がないのである。
この本にはページごとに、すごいところがある。
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微笑ましく、ヴィヴィッドなスケッチは数限りないが、それとともに、
親善、などという文字が空々しくなるほど、人々と直に融合してしまうすばらしさ。
これはもう天使のおこないである。
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文は人なり、であるにしても、どうしてこんな文章が書けるのか、私は絶望する。
★犬が星見た 解説/色川武大★
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