ちょっとおあがりなさい、とセンセイは言った。
お茶でも一杯。そう言いながら、奥のほうへ歩いていった。
「I (ハート) NY」の小さなロゴが、センセイのシャツの背中にもプリントされている。
アイラブニューヨーク。ロゴを読みながら、わたしは靴を脱いだ。
センセイ、パジャマなんか着るんですね。寝巻きじゃないんですね。
つぶやきながらセンセイのあとを歩いていると、センセイが振り向いた。
ツキコさん、わたしの被服生活に文句をつけないでください。
はい、とわたしが小さく言うと、センセイは、よろしい、と言った。
★センセイの鞄/川上弘美★
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