「あなたは彼女の読者だったのよ。読者を得るためなら、作家は殺人も辞さない」
「たった一人の読者?」とわたしはきいた。
「彼女にはそれだけでたりたのよ。だれでも一人で充分。
ごらんなさい、彼女の字がどれほどうまくなり、語彙がどれほど豊かになったか。
あなたが一語一句むさぼり読んでるとさとったとたんに、
彼女がどれだけ自分のいいたいことを発見したか。
彼女は、けだもの同然のグレゴリーに手紙を書くわけにはいかなかった。
といって、故郷の親たちに手紙を書いても意味がなかった。
むこうは字が読めないんだもの!
手紙の中で、こまごまと町のようすを説明するのは、あなたがそれを絵にしたくなるかもしれないからだ、
と彼女が書いてきたとき、あなたは本気でそれを信じた?」
★青ひげ/カートヴォネガット★
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