「ママ」
「なんですか」
「しっ!ママに秘密の相談が」
「他にだれもいませんよ」
「私は決めた、家出をするぞ」
「そうですか」
「冒険を求めて旅に出るんだ」
「遠くにですか」
「行き先がわからないという、たえがたい不安と緊張がうずまく旅なんだよ、行こう、ママ」
「いいですよ、パパ。子供たちも連れて行きましょう。きっと喜ぶわ」
「ちがう、ちがうんだよ、ママ。それじゃこの退屈な生活を、また持って行くことになる」
「じゃあ、どうしたらいいんですか」
「私は若い頃の冒険家にかえる。君は冒険家の妻だ。
いや、冒険家の恋人になる。二人はあてどのない旅に出るのだ」
「子供たちを置いていくのは気になるわ」
「もっともだ。しかしママのその不安は、私たちの旅をよりスリリングなものにしてくれるはずだよ。
ほらごらん、ドキドキしてきた」
「さあ、行こう!ママ」
「あ、ちょっと待って、パパ」
「なんだい、また忘れものかい?」
「ええ、そうよ。お砂糖のあり場所を書いておくのを忘れたわ」
「そんなもの勝手に探し出すよ、子供たちは」
「もし見つからなかったら、お茶も飲めないし、ホットケーキも作れないわ。えーと、どこに置こうかしら」
「やはり冒険は一人でやるべきだ。私はどうしてママを誘ったのだろう。
いやいや、一人でやる冒険は、私には寂しすぎる」
★ムーミンパパの家出/斉藤博★
■アニメの方のムーミンから。
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