宿題

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2003年01月07日(火) 波のうねうね(クルの通い路)/内田百間
三人の内、誰が云い出したか、はっきりしないが、三人がみんな鈴の音を聞いていて、

誰も姿を見た者がないとすれば、それはクルに違いない。

クルが帰ってきたくなって、通り馴れた屏際の支那鉢の所まで来たのでしょう、と云う事になった。

一昨年の夏、私共の手元で病死した猫が、死に切れないで迷って来た、などと、そんな風にはだれも感じていない。

そうではなく、ただうちに帰りたくなったのだろう。

クルが帰りたくなったのは自然で、当たり前のことである。

私共としても、いまだにまだ、しょっちゅう、クルのことを思いだし、話し合っている。


クルがいればいいのに。クルがいれば、今頃はあっちの部屋から出て来て、ここに坐っている時分だね。

クルがいればこれをやるのに。


こちらがこんな風だから、クルだって帰って来たくなるだろう。

庭の隅の地の底で、姿はもうなくなっているに違いないが、一たび生を享けたものに、その跡が遺こらぬ筈はない。

玄関前の、屏際の支那鉢のあたりで、猫の小鈴の音がするのは、クルや、お前か。

お前の鈴の音だろう。


★波のうねうね/内田百間★



■『クルの通い路』という章から。

マリ |MAIL






















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