K駅のガード下をずっと行ったところに、アカデミ劇場という看板のポルノ映画館があって、
老人の日の前後にその前を通ったら、半紙に墨書きの貼紙があった。
『老人福祉習慣。証明書をお見せ下さい。半額』
この簡潔明瞭で温かい言葉。その貼紙を思い出す。
まあお客が少ないから、こんなことをしているのかもしれないけれど。
いいでしょ、この貼紙見て喜んで楽しみにして半額で入りにくる老人がいるのだから。
辛うじて残っているポルノ映画館、ゆらゆらと老人が自転車を漕いで一人でやってきて、
自転車をたけかけ、汚れた厚ぼったい黒いカーテンをまくって吸い込まれて行く。
三本立である。三本立いくらなのだろう。
本当のところ、どういう気持ちでやっているのかはわからないが、
老人を半額にしているのは、えらい。
証明書をお見せ下さい――、六十五歳以上が半額なのかしら。
ただ年をとっているように見えたからといって入れてはくれないのだ。
この厳格さ、年寄りだからといって矢鱈甘えさせないのも、えらい。
★日日雑記/武田百合子★
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