食堂は満席。
しばらく待つ間、陳列棚に並べてある模食(蝋細工の見本料理)――
『五目セット』(五目御飯+清し汁+ところ天+アイスクリーム)、
『いなりきしめんセット』(きしめん+清まし汁+いなりずし二個+コーヒー)、
『おでんきしめんセット』(きしめん+おでん+三食団子+蜜豆)などなど、
さまざまな組合せで十種類ばかり――を、つくづくと眺めていたら
(なかでも鳥肌立つように煮くたれたおでんの大根は実によく出来ていた)、
突然、あの世って淋しいところなんだろうな。
あの世にはこういう賑やかさはないだろうな。
こういうものがごたごたとあるところで、もうしばらくは生きていたい!!
という気持ちが、お湯のようにこみ上げてきた。
やっと二つ席があいて腰かけると、Hはあたりを見まわして、
「わたし、どうしたんだろう。むらむらっとお正月気分が湧き上がってきた」と言った。
私は模食を眺めていたときの、いましがたの気持ちを話した。
「それこそがお正月気分というもんですね。お正月にぴったりですね」
とHは真面目な顔をして深く肯いた。
★日日雑記/武田百合子★
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