ギラギラとまぶしいライトを光らせながら、南のトンネルから電車が顔を出しました。
もうすっかり、明るくなった朝をつらぬいて、緑とオレンジの電車はからだをゆすりながら、
ホームへかけこんできます。
ずいぶん、活力にみちた元気な電車だな、と重いながら、亜有子はのりました。
高校生も一つ前の車両にのりました。
だれもいません。
乗客は亜有子一人きり。前の車両も、高校生一人きり。
うしろを見返ると、うしろはグリーン車のくもりガラスで、見えません。
ドアがしまりました。亜有子は、車内広告を見上げました。
二十人くらいのダンサーが肩をくみあい、足を高くあげておどっている写真。ホテルのショーです。
「ぶて!青春を。」
黒ヒョウのように目だけ白い黒人ボクサーが身がまえてる図。
これは新しくひらかれたボクシングジムの広告です。
「たえられるか、ハードな戦い。」
こちらは、女子プロレス選手権の興行。
どの写真も、目がギラギラとかがやいて、まだねむけのとれない亜有子をぐいとつかんで、
ゆさぶるようです。
「え、おはようございます。」
ねむそうな車内アナウンスでした。
「この電車は、なぐり電車でございます。ぞんぶんに、おなぐられください。」
なんのことやら、全然、意味がわかりません。
いきなり、ポカーンと亜有子は頭をたたかれました。
びっくりして顔を上げると、ほっぺをぶたれました。
「えッ――いたい、なぁ。」
こしをうかせたら、右の肩をコーンと音がするほどなくられ、
「わぁッ、なに、なんで。」
いくら見まわしても、どこにも、人はいないのです。
■これも「霧のむこうのふしぎな町」と同じく、小学生の頃買ってもらった本。
「頭の中におよめさんをレンタルできる」というお話、と書いてもあれですが、 主人公の亜有子がクレヨン王国に入る場面。
このあとも4ページくらいずっと殴られっぱなし。 でもこの「なぐり電車」にのらないと、クレヨン王国には入れないのです、ひどい。
|