とつぜん。風がブワーとふいた。
森はいっせいにガサゴソといい、かさがぱっとひらいて、風にとばされた。
リナは、つかまえようとしたが、かさは二本のヒマラヤすぎのあいだにかくれてしまった。
リナは、かばんをつかむと、あわててそのヒマラヤすぎのあいだにとびこんだ。
背の高い木がしげっていて、うす暗い森の木のあいだに、白いものが見える。
たしかにかさだ。
ところが、リナがそこまで追いつくと、かさはそれよりちょっとさきへいってしまう。
リナは、むちゅうになって、追いかけまわした。
木々は、そんなリナをあざわらうように、リナの頭の上で、ザワザワ音をたてている。
ふっと気がつくと、白いものがながれはじめている。
霧だとわかったときには、一メートルさきもぼんやりかすんでしまった。
思いがけないできごとに、リナは、まっさおになって立ちすくんだ。
まだ夕方でもないし、そんなに高いところまでのぼったわけでもないんだから、
すぐに晴れるにきまっていると、ひっしになって、自分にいいきかせた。
へたにあるきまわらないほうがいいのかもしれない。
リナは、なみだをこらえてその場に立ちどまった。
さっきまであせをかいていたのに、もうはだ寒い。
むきだしのうでには、鳥はだがたってきた。すこし運動でもしてからだをあたためよう。
リナは元気をふるいおこして、いっち、にっと、足ぶみをした。
あれっ、おかしいな、とリナは思った。
なんとなくおかしい。足の下は土の感触じゃない。
それに、コンコンとかたい音がしたような気がする。
リナはかがみこんで足もとを見た。
左足は雑草の上に、右足は石の上にある。それもたいらな石。
リナは、もう一歩、霧の中へふみだしてみた。
やっぱり石の上で、リナの白いくつが。コーンと音をたてている。
リナが一歩ずつ、コーンという音をたしかめながら、あるいていくうちに、
幕があがるように、さっと霧が晴れていった。
リナは、ぽかんと口をあけて、あたりを見た。
目の前に小さな町があったのだ。
★霧のむこうのふしぎな町/柏葉幸子★
■いくら食べても太らないトケのお店のお菓子、 「むちゅうでたいせつに」読むことが代金のナータの古本屋。
もう何回読んだことか、と思ったけど、でもこの通りをみんなで 「気ちがい通り」って呼んでる、っていうのは忘れてました。
その「気ちがい通り」こと霧の谷へ、主人公のリナが入っていく場面。
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