杉浦茂さんが亡くなった翌日、唯一の長年のお弟子さんからご連絡をいただきました。
仕事を通してのお付き合いも気が付けばはや10年。
不思議なものですが、その前日、とつじょ『杉浦茂のマンガ館』の最終館巻が読みたくなり、
本当に数年ぶりに頁を開いていたところでした。
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べつに理想もありません。
抱負もなんにもありません。
田舎のかたは理屈を述べます。
そういうかたは漫画なんか描かず、小説を書けばよろしいし、
それでダメならよしゃいいのです。
読者を面白がらせようと思ったこともありません。
ここまで生きてくれば自分のことはたいていわかります。
こんな漫画を描くのはですから私がたんに内容空虚な人間であり、
平凡なバカだったためです。
私の素地が単純にでているだけに過ぎません。
でも本当のところ、自分の描いたもののことはよく覚えていません。
無責任な漫画人生でした。
ではみなさん、ごきげんよろしく。
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巻頭の杉浦さんによる序文です。
このさっぱり具合、自己表現への欲のなさは、まったく杉浦さんらしい、清々しいものです。
◇
さておき、杉浦さんの奥様というのがまた大変に素敵な方で、お宅に伺う楽しみのひとつでした。
昔っから、お仕事のことは本当になんにも知らないの、とよくおっしゃっていましたが、
その天真爛漫な天然の明るさは、作品に出てくる女の子たちに少なからず影響を与えていたのではないかしらと
密かに思います。
葬儀が終わり、会場にひとりポツンとなさっていた奥様にご挨拶にいきました。
「スギウラはもういないけどね、またきっとすぐに遊びにきてね」。
ええもちろん、と答えようとしたとき、ご健康を心配されたご家族の方のストップがかかりました。
「ほとんど眠ってないんですからね。しばらくは休まないといけませんよ。」
「チェッ!」
……帰り道、やはりその場にいて、先生と奥様をよく知る知人と確認し合いました。
「奥さん、チェッ!って言った」
★さようなら、杉浦茂さん/清水檀★
■クイックジャパンvol.31から。
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