○プラシーヴォ○
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12/24 クリスマスバトル 歩く速度が世界一速い人種の群れの中で 私はクリスマスのディスプレイを見上げる 1人で、見上げる
「行っていいの?」 嬉しそうな声、嬉しそうな顔
明日、サッカーの試合があるんでしょ?
と私が尋ねたのは、
「行かないよ イブはがちゃ子と過ごすんだから」
という返事が聞きたかったからなのに
そんな顔で、そんな声を出されたら 「いいよ。行っておいで」 としか、言えないでしょう
これまた嬉しそうな顔で、今朝、ハム男は出かけていった
しばらくして、私も街へとやってきた 予想通りの人、人、人 人ゴミからかばってくれるハム男はいない なんとかケーキの箱を死守しつつ、電車に乗り込む
夕食…どうしよう メニューが思いつかないし、 食べに行くところも思いつかない
そんなに楽しいなら、そのままサッカーの友達と 食事して来て下さい
とメールを打った
私は、宅配ピザでも食べればいい
ハム男の家で、ピザのメニューをながめていると 電話が鳴った
「がちゃ子?今から帰るよ カレーを作ってあげるからね あと、途中でチキンも買って行くよ」
メールの事には一切触れず、カラリと明るい声で 私の名前を呼ぶハム男
食べて食べて飲んで飲んで すっかり瞼が下がり気味の私は、 素早くお風呂に入って、ベッドに倒れこんだ
それを見たハム男は 部屋の電気を消して私の頭を撫でた
そして、自分は再びテレビへと向き直る
特にきっかけがあったわけじゃないけれど 今しかない、言うのは今しかない、と思った
ベッドの上で寝転がったまま、ハム男の方へ顔を近づける
「あの…さ、週に一、二回しか逢わないんだから もうちょっと大事にしてくれても、いいんじゃないのかな?」
膝を抱えてテレビを見ていたハム男が、 顔をこちらへ向ける
「大事にするって、どういうこと? 俺は、ちゃんと大事にしているつもりだけど?」
予想を遙かに上回るキツイ口調に、私はたじろいだ こんなに私を突き放すように話すハム男は 初めて見た
「ねえ、どうして大事にされてないって思うの? 例えば?言えよ」
いつも笑って言い逃れするハム男が 今回は逆に私に詰め寄ってくる 怖くて、口ごもる私を見てハム男が言葉を足す
「今日、がちゃ子を置いて、サッカーに行ったこと? でも俺からサッカーを取ったら、何も残らないくらい サッカーが好きだし、大事なんだよ」
今日だって、メンバー殆ど全員揃ってたよ 彼女がいるやつだって、ちゃんと来てたよ 交代で審判をやったりして、いろいろあるんだよ 俺だけ、急に休むわけにはいかないんだよ
知ってる、知ってるよ 知ってるんだけどさ、イブの日くらい一緒に…って 期待するのはいけないことなの?
もうすっかり、涙にまみれて嗚咽し始めた私に頬をよせて ハム男が言った
「がちゃ子も、何か見つけないとだめだな」
それは私が今まで付き合ってきた人達に、さんざん言った台詞
私のことだけ考えないで 趣味を持って 何か熱中できるものを探して
そうだね、分かった、ゴメンネ
ティッシュで涙を拭くハム男の手をやんわりとどかして、 私はハム男に背を向けた
次の瞬間、私は暗闇を見ていた 横でハム男が寝息をたてている
AM4時
どうして目が覚めたんだろう
いろいろ体勢を変えても、どうにも寝付けない
「…目が覚めたのか?」
一度寝たらめったなことでは起きないハム男が 起きてしまった 私がガサゴソと動いたからだ
「あ…うん。ごめんね」 なるべくハム男から離れようとして、 壁にぴったりと身を寄せる
壁とベッドの隙間に埋まりそうな私 首の下に、ハム男の腕が潜り込み、私を引き寄せる
開いている方の手で、布団と毛布をきっちりと私の肩へ掛ける
ずしり、とベッドに私の体重が乗った いつの間にか緊張していた私の体が弛緩したのだ
今日がイブでなければ あなたを気持ちよくサッカーへ送り出して あげられたかもしれないのに
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