○プラシーヴォ○
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2001年10月20日(土) RECプリーズ

「ここに行きたいんだけど!」
ハム男の顔に、地図をつきつけた。

会社のパソコンでこっそり調べた、日帰りできる温泉。
膨大な情報の中から、とりあえず
露天風呂の写真がひときわ綺麗だった
『不動口温泉』をチョイス。

遊ぶ場所を探したりするのが苦手な、出不精のハム男。
私が行きたいと願い出る所は、大抵、嬉しそうに賛成してくれる。

ハム男家から約1時間のドライブ。

温泉があるのは、一応大阪なのだが
ほとんど和歌山に近い場所だけあって
自然が豊かで、景色がのんびりしてる。

紅葉しようかな…どうしよっかな…
とムズムズしているような微妙にくすんだ色の
山々の間に、突如コスモス畑が現れる。

濃淡さまざまな色の花びらがびっしりと咲きほこっていて、
桃色のケムリのようだった。
うっとり。

思っていたより小さな旅館が見えてきた。
すぐ横の駐車場で、おばちゃんが激しく私達を手招き。

「ここら辺は初めて?
ここの右手のミナミ温泉か、すぐそこの不動口温泉なんかどう?
でもミナミ温泉は女性用のお風呂が工事中で少し狭くなってるの
あと、ここを下ると遊歩道があって気持ちよく散歩ができるわ。
ぜひ今度はお弁当を持って来なさいね」

駐車場代の500円を手渡す間に、
おばちゃんはあちらこちらを指差しながら
話してくれた。ほっこりとした笑顔が印象的。

最初からの目的だった不動口温泉に入る。

4年ほど前に一度改装したらしく、お風呂は小さいけれど綺麗。
わりとぬるめのお湯につかる。
壁一面が窓になっていて、下を流れる緑青色の川と、涼しげな木々が見える。

お風呂の横に下に下りる木の階段があって
その先に露天風呂がある。

若干熱めのお湯。
木でできた階段や床が、緑色に変色しているのが
少し不快だった。
苔なんだろうけど、カビにも見える。
中途半端潔癖症の私は、つま先立ちで、そろりそろりと歩いた。

お風呂を出て、駐車場のおばちゃんに聞いた遊歩道を歩く。
もう15時すぎだったこともあって、木々で覆われた道は薄暗い。

一本道の終点には神社があって、これまた怖い。
鳥居をくぐったはいいけれど、いったいこの先に何があるのか
さっぱり分からない。
道がうねうねと曲がっていて、案外と険しいのだ。
山そのもの、といった感じだ。

「…この辺りのいったいどこでお弁当を食べろというんだ…?」
ハム男が呆然としながらつぶやく。

あまりに雰囲気が怖いので、早々に引き返す。

帰り、岸和田のサービスエリアでソフトクリームを買った。
すごく濃い。
甘ったるいとか、そういうのではなく、
まるで牛乳そのものをのんでいるみたい。

ん〜

と、おいしさの余り喉でうなるハム男。
ハム男の笑顔。

サービスエリアにある池の中の太った鯉。

池の周りのかなり背の高い竹藪。

もうすっかり、オレンジ色になって
地平線の向こう側へ、とろけてしまいそうな太陽。

全部全部、このまま冷凍保存できたらいいのに。
何か不平不満が爆発しそうな時、
解凍して、この瞬間をもう一度味わえたらいいのに。


それは無理だとしても
ずっとずっとハム男がこうやって笑っていてくれたら嬉しい。

ハム男と一緒だからこそ
保存してしまいたいほど
この瞬間を愛しく思うんだね。


がちゃ子 |偽写bbs

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