遠距離M女ですが、何か?
井原りり



 トウシューズ

机上の整頓も部屋の片付けもできないあたしなので、失せ物が見つかるのにも時間がかかる。

が、一昨日消えた携帯がちゃんと近所のスーパーの警備室に届いていた。

こんなにすぐに亡くしたモノが見つかるなんて!

めったにないから、とてもウレシイ。

総合サービスカウンターへ来い、と言われ、名前と住所を聞かれたあとで、警備員のおじさんが来るまで待てという。

その間、あたしの若い友人がてきぱきと働いてるところを見ていた。

薔薇色リボンのトウシューズみたいなハイヒールがきれいだ。

くるんくるんの巻き髪もなんてキレイなんだろう。


若いオンナを本当にまぶしく思った。
嫉妬ですらなく、ただまぶしいのだ。


従業員が一人、休憩から戻ってきた様子。

せっかくだから、彼女とお茶を飲もう、と思った。


「今日の休憩、何時から?」聞くと
「あと5分くらいで休憩です」という。

ぐっ、たいみん〜!


携帯を受け取ったらすぐ帰るつもりで財布だけ持ってきたが、中身は空っぽ。

「ATMに行きます?」
だなんて、気が利くようにもなったんだな。

若いオンナが細いカラダに似合わず、もりもりとランチをたいらげるのを見ながらお茶を飲んだ。


昔むかし、みんなそれぞれ、いろんな恋をしていた。

彼女は札幌の中学校を卒業すると、家庭教師と駆け落ちをして、あたしの町に来た。

家庭教師は某大手保険会社のサラリーマンになっていたが、ヒモみたいに彼女を働かせてぐうたらするようになっていた。

愛想が尽きたところへ、年下の少年から告白され、心が動いた。

その年下の少年は、彼女の美貌にはあこがれたが、彼女から逆に愛され、依存されるようになると、彼女を捨てた。


年下の少年は、もっと年下の少女と出来ちゃった結婚をして、今じゃあ父親だ。

札幌からこんなところまで来て、いろんな恋をして、でも、今もまた恋をして、そうやって一日は暮れていくのだ。






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2005年03月17日(木)
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