2009年03月14日(土) |
『 花粉用 超立体 マスク 』 |
「 つねに、手紙に貼る切手のようであるべし。
目的地に着くまで、そいつにくっつき続けること 」
ジョシュ・ビリングス ( アメリカの作家 )
Be like a postage stamp. Stick to one thing until you get there.
Josh Billings
仕事や、プライベートで、来日した外国人を各地へ案内する機会が多い。
どの国にも文化の違いがあって、写真を撮ったり、珍しそうに眺めている。
彼らの大半は、ガイドブックを買ったり、大まかな説明を受けたりしており、概ね、日本の文化や歴史について、一応の予備知識を得ている。
こちらも、尋ねられそうな質問に答える準備をして同行するのだが、意外なところに興味を示され、奇異に感じられる事例も少なくない。
この季節は、風邪や花粉症の影響で 「 マスク 」 を装着する人が多いが、その数の多さに、驚いたり、不気味がり、説明を求める外国人もいる。
そういえば、色々な国に旅したが、日本ほど、多くの人が マスク を付けている光景を目にした記憶はなく、これも、日本特有の文化なのかもしれない。
日本には 「 よほど恐ろしい伝染病が蔓延してるのか 」、「 よほど日本人は潔癖症なのか 」、「 よほど大気汚染が深刻なのか 」 と、怪しむ人もいる。
寒い冬に インフルエンザ が流行るのは、それらの ウイルス が 「 低温 」 と 「 乾燥 」 を好むからだと、いまでは広く知られている。
マスク を付けると、口元の湿度が上昇し、吸い込む空気の温度も、自分の吐く息の温度で温められるから、加湿・加温で ウイルス が死滅しやすい。
また、花粉症の人にも、花粉が呼吸器へと侵入するのを防いでくれるため、この時期、マスク は手放せないという。
観察してみると、昔ながらの 「 平面的な マスク 」 を付けている人よりも、「 立体的な マスク 」 を付けている人のほうが、多いことに気付く。
この 「 立体的な マスク 」 は、以前から世界中の医療現場で使われていたものだが、初めて市販型を出したのは、日本の 『 ユニチャーム 』 である。
他社が、なぜ 「 立体的な マスク 」 の市販化に遅れたかというと、それは、見た目が 「 手術 」 や、「 からす天狗 」 を連想させたからだという。
ちょっと風邪をひいたとか、花粉症になったぐらいで、「 大袈裟で恐ろしげな マスク を付ける人はいないだろう 」 と、誰もが思っていたらしい。
手術用の立体的な マスク は、通気性が高く、呼吸が楽で、付けたまま話もできるし、眼鏡をかけた人が、自分の吐息で曇らせる心配もない。
そうした利点に誰もが気付きながら、いざ市販となると、見た目が悪いので一般客には売れないだろうと、決め付けていたのである。
また、仮に消費者から受け容れられたとしても、当時の マスク の市場規模から考えて、開発に投じた費用が、回収できる目処は立たなかった。
他社が市販化に躊躇する中で、ユニチャーム 社 だけが採算を度外視して開発を続けた背景には、同社の明確な 「 企業理念 」 が影響している。
同社では、女性の生理用品や、赤ちゃんの紙おむつなどを主力に販売しており、女性を、特有の不快感や子育ての苦労から開放する理念があった。
この 「 女性の生活を快適にしたい 」 という目的意識の高さが、花粉症などで悩む女性たちの声を吸い上げ、ついには、市販化に成功したのである。
その第一号である 『 花粉用 超立体 マスク 』 を発売したところ、はるかに予測を上回る大ヒット商品となり、市場規模全体を大きく拡大させた。
諸外国に比べ、日本人に マスク をする人が多いのは、この企業の功績が大きく、いまでは他社も開発に力を入れ、次々と新商品が生まれている。
見た目を気にする女性たちに、この商品が売れた 「 もう一つの理由 」 は、開発者の意図しなかった “ 偶然 ” の効用にあったのだという。
それは、ぴったりと顔に フィット しながらも、マスク に 「 口紅がつかない 」 という利点で、偶然の産物だが、女性にとって便利な機能となった。
他に、「 平面的な マスク よりも、ゴム の跡がつきにくい 」 とか、「 ゴム が痛くない 」 などの評価も得て、女性のみならず、男性からの評価も高い。
外国人に 「 なぜ、日本人は マスク をする人が多いのか 」 を説明するために、あれこれ調べた結果、この “ 開発秘話 ” へと辿り着いた。
冒頭の言葉は、「 目指すものを見つけたら、諦めずに、粘り強く頑張れ 」 という言い回しだが、立体 マスク 開発も、その姿勢で成果を得たのだろう。
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