Tonight 今夜の気分
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2008年12月17日(水) 企業が本当に斬りたいのは …



「 人の幸福は、他人の不幸の上に築かれている 」

                    イヴァン・ツルゲーネフ ( ロシアの作家 )

Every man's happiness is built on the unhappiness of another.

                                  Ivan Turgenev



誰もが幸福に暮らせる社会こそ、近代国家の理想である。

だが、それは 「 皆が同じ努力をした場合 」 という前提に、基づいている。


実際には、努力する人、怠慢な人、積極的な人、消極的な人、誠実な人、自分本位な人、様々な人がいるわけで、当然、その運命は違ってくる。

また、誰かの犠牲により幸せを掴む人もいるのだが、概ね、そういう人は、自分が犠牲を強いている相手のことを、あまり意識していない。

わかりやすい例を挙げると、たとえば、親のスネをかじる馬鹿息子などは、親が自分のために、どれほどの苦労をしているのか、興味すらない。

貧しい後進国から買い漁った食糧を、粗末に捨てる日本人も、ある意味、同じようなものだから、反省が必要だろう。

大半は、どこかで己の過ちに気付き、自分が犠牲にした人々への感謝や、贖罪の気持ちを抱くものだが、稀に、いつまでも気付かない人もいる。


最近、あちらこちらの企業が、派遣労働者など 「 非正規雇用 」 の人々を大量に解雇する現象が広がり、大きな社会問題になっている。

一昔前までは、非正規雇用で生計を立てる人が少なく、どちらかといえば、副業的な収入を得る手段として、非正規雇用を選ぶ人が多かった。

代表的なものとしては、世帯主である旦那の給料だけでは物足りないから、奥さんがパートに出たり、大学生の子供がアルバイトをするような例だ。

ところが、ライフスタイルの多様化によって、学卒後も正社員に就かない人が増え、それに対する 「 うしろめたさ 」 も、徐々に薄れてきた。

小泉政権下で、「 派遣業法 」 が緩和され、やたらと派遣社員が増えたことも大きな要因だが、非正規雇用を選んだのは、各人の意思によるものだ。


当初、非正規雇用に従事する人々が解雇されても、どちらかというと各企業の労働組合は無関心で、救済のために行動を起こす団体は少なかった。

彼らは、あくまでも 「 正社員のための組合 」 であって、企業にとって雇用負担の少ない非正規雇用者は、むしろ、自分たちの敵だったからである。

実際、アルバイトでも事足りるような仕事すら、高額な退職金や福利厚生の必要な正社員にさせていた企業では、非正規雇用の増加は脅威に感じた。

一部の職場では、正社員が非正規雇用者を 「 目の上のコブ 」 とみなし、露骨な嫌がらせをしたり、反目する状況さえみられたほどだ。

同じ仕事をしていても、仲間意識はなく、正社員にとって非正規雇用者は、まるで 「 自分たちを脅かす存在 」 のように、毛嫌いされる傾向にあった。


ところが、不況が深刻化し、非正規雇用の大量解雇が始まった途端、今度は手の平を返したように、多くの組合が彼らを庇い始めた。

企業による非正規雇用者の大量解雇を許せば、「 次は自分たちの番 」 になるかもしれないという不安が、一気に拡がったせいである。

非正規雇用だけならまだしも、正社員までクビにされたら困るじゃないかと、にわかに慌てふためき、態度を豹変させたとみて間違いない。

たしかに、彼らが 「 次は自分たちの番 」 という危機感を抱きはじめたのは正解で、おそらく、これから正社員を対象にしたリストラが進むだろう。

だが、「 非正規雇用だけならまだしも、正社員まで 」 という認識については、残念ながら、「 問題の本質を理解していない 」 と言わざるを得ない。


冷静に少し考えればわかる話だが、いま、企業が本当に解雇したいのは、非正規雇用者でなく、正社員のほうである。

もちろん、給料に見合う働きをする人材は貴重だが、能率の悪い正社員、育成計画から外れた戦力外の正社員は、企業の足かせとなっている。

たとえていうと、「 30年前のエアコン 」 みたいなもので、まったく冷えないのに、電気代ばかり無駄に喰うような代物だ。

しかし、正社員の場合は非正規雇用者と違い、複数の法律で地位が守られており、条件が整わないと、そう簡単には解雇できないのが実情である。

そして、その整えるべき条件の一つに 「 非正規雇用者を全員解雇したか 」 という項目が含まれることを、ご存じでない方が多い。


つまりは、極論から言うと 「 1人の正社員を解雇するために、10000人の派遣労働者を先に解雇する 」 という対応が、必要な場合もある。

非正規雇用者が大量解雇される報道を、お気の毒そうに眺める正社員の中には 「 本当は自分が狙われている 」 ことを、知らない人もいるだろう。

企業は、狙いをつけた正社員さえ解雇してしまえば、景気の回復に伴い、新たな正規、非正規の採用を再開することが可能で、何のリスクも無い。

けして、正社員の方々に対し、不安を煽るつもりはなく、各人が企業の業績に貢献できる 「 価値ある人材 」 になれば、まったく問題はないのである。

逆に、その 「 価値 」 が無いのに正社員として居座っている人は、意識していないところで誰かを犠牲にしていることを、深く反省すべきだろう。






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