Tonight 今夜の気分
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2008年12月01日(月) 「 うつ病 セレブ 」 と 「 うつ病 難民 」



「 その経験を賢く活用するなら、何事も時間の無駄とはならない 」

                   オーギュスト・ロダン ( フランスの彫刻家 )

Nothing is a waste of time if you use the experience wisely.

                                  Auguste Rodin



ロダン といえば、頬杖をついて座る 『 考える人 』 の像が有名だ。

これが単独の作品でなく、ある作品の “ 一部 ” なのは、ご存知だろうか。


彼の代表作 『 地獄の門 』 は、上野の国立西洋美術館など、世界7ヶ所に展示されているが、上部に飾られている群像の一つが 『 考える人 』 だ。

銘文には、「 この門をくぐる者は一切の希望を捨てよ 」 と書かれているが、一部の研究者らは 「 あるがままに現実を受け入れよ 」 と解釈している。

認めたくない現実から目を背けず、逃げずに平然と受け入れるのは、強い精神力を要し、まさに 「 地獄の入り口 」 へ足を踏み入れる覚悟が要る。

病気というものも、認めたくない現実の一つだが、絶望に暮れるだけの人、現実逃避する人、治療に励む人など、その反応は人それぞれだ。

また、当事者の置かれた環境によっても、病気という現実を受け入れやすかったり、受け入れ難かったりするので、一概に患者の問題だけではない。


精神科医 香山 リカ さん の近著 『 「 私は うつ 」 と言いたがる人たち 』 を読むと、「 うつ病 セレブ 」、「 うつ病 難民 」 という記述が登場する。

最近、大企業や公的機関などでは、社員の 「 メンタルヘルス対策 」 に力を入れるところが増え、以前に比べると、休職、復職が容易になっている。

医師の診断書さえあれば、長期休暇が取得でき、体調が悪いのであれば、遅刻しても、早退しても、それが原因で解雇されることはない。

そのせいか、大企業に勤め、少し体調が悪いと精神科医を訪ね、そこで 「 うつ病 」 と診断されなかった人の多くが、ショック を受けているという。

現在の診断基準では、一定の うつ症状 が二週間以上続けば 「 うつ病 」 と診断されるが、そうでなければ、別の診断結果が下される。


逆に、中小企業に勤める人の多くや、非正規雇用者の場合は、精神科の疾患という診断を下された時点で、もう、その日から仕事を続けられない。

法的には、病気を理由に解雇できないが、遅刻が多い、職能が低いなど、別の理由で 「 職務遂行困難 」 と判断し、辞めさせることは可能だ。

だから、彼らは精神科医に対し、たとえ 「 うつ病 」 でも、「 胃潰瘍 」 とか、何か別の診断書を書いて欲しいと頼み込むらしい。

実際は別の病気なのに 「 うつ病 と書いてくれ 」 と頼む人がいる一方で、「 うつ病 と書かないでくれ 」 と頼む うつ病 患者がいる。

彼らは、本人の 「 心の問題 」 でなく、書類を提出する 「 職場の問題 」 によって、正しい治療や診断を受ける機会が、大きく左右されているのだ。


同じ病状でも、まわりの顔色をうかがわず “ 私は うつ病 です ” と公言できる 「 うつ病 セレブ 」 と、口に出せない 「 うつ病 難民 」 が存在する。

前者の中には、長期休暇を利用し、海外旅行やレジャーに行く人もいるが、「 治療やリハビリの内容に口を出すな 」 と言われ、上司は何も言えない。

うつ病 であることを 「 マイナス の アイデンティティ 」 として ブログ などの プロフィール に書き添え、会社はサボっても、更新は欠かさない人もいる。

同僚や上司、あるいは家族が、「 遊んだり、ブログ の更新が出来るなら、仕事だって頑張れるはず 」 と思っても、最近の風潮が批判を許さない。

精神医学的には、無気力で何も出来ない人も、仕事中だけ無気力な人も、どちらも 「 うつ病 」 と認定でき、けして仮病の類ではないからだ。


以前のように、精神病であることを隠さなければいけなかった時代と比べ、病状を公言し、治療に専念できるようになったことは、好ましい状況だ。

ただし、一部で 「 うつ病 だと主張しすぎる人たち 」 が増えて、精神疾患で苦しむ人たち全体が “ ゴネ得 ” をしているような誤解も生まれている。

これが、先に述べた 「 うつ病 難民 」 と呼ばれる人たちにとっては、適切な治療を受ける機会や、安心して就労できる機会の喪失に繋がる。

近頃は、「 うつ病 と言うと、なんでも許される社会 」 と形容されているが、それは 「 うつ病 セレブ 」 の世界に限られ、病人にも 格差 が存在する。

病気の現実を受け入れることや、周囲が協力することは大事だが、良識に照らし合わせ、慎ましい態度をとることも、患者の使命ではないだろうか。






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