Tonight 今夜の気分
去るものは追わず、来るものは少し選んで …

2007年07月22日(日) エスカレーターの正しい乗り方



「 おお、東は東、西は西、両者たがいに相合うことなし 」

          ジョセフ・ラドヤード・キプリング ( イギリスの作家、詩人 )

Oh, East is East, and West is West, And never the twain shall meet, …

                          Joseph Rudyard Kipling



1889年に発表された 『 東と西のバラード 』 に登場する有名な台詞だ。

少年時代をインドで過ごした彼は、日本にも二度、訪れたことがある。


この 『 東と西のバラード 』 は、インド の英軍駐屯地を舞台とした物語で、幼少時代の経験から書かれた作品とみて間違いない。

物語は、インド人 カマール が英国将軍の馬を盗んで逃げ、将軍の息子が カマール を追い、馬でインド人地区へ勇敢に入っていくところから始まる。

そこで カマール は、彼を殺そうと思えば殺せたのだが、その青年の勇敢さと、巧みな乗馬術に深く感心し、握手の後、無事に馬を返したのである。

冒頭の一句は、物語の終盤に記されたが、それ以来、1世紀以上もの間、世界中の人々に引用され、マスコミの報道用語にも多用されてきた。

20世紀の世界は、「 東と西の深い対立 」 という構図が色濃くあったので、この句は直面する現実的な不安を語る際に、便利なツールだったのだ。


先週も東京まで出張したが、洋の東西まで話を広げなくとも、東京と大阪という僅かな距離の差でも、対応が正反対だったりする事例はある。

たとえば、エスカレーターに乗るとき、急ぎ足で歩いて上がる人のために、東京は右側を空け、大阪は左側を空ける慣習が、自然と定着している。

そうなった理由は、かつて 江戸 ( 現在の東京都 ) は武士の街で、左側に携行する刀の鞘にぶつからぬよう、追い越す人は右側を通り抜けていた。

その名残から、東京では雑踏において、追い抜き者のために右側を空ける慣習が定着したらしく、大阪と逆の ルール が常識とされてきたようだ。

参考までに、海外の主要都市はどうかというと、大阪と同様に左側を空ける都市の方が多いそうで、それが世界基準だといわれている。


駆け上がるのは右側か、左側が正しいのか、製造しているエスカレーターのメーカーに尋ねると、答えは 「 右も左も、歩かないでほしい 」 とのこと。

エスカレーターの安全基準は、人がステップに立ち止まって利用することを前提としており、歩いて上ることは非常に危険なのだそうである。

また、片側を空けることで、荷重バランスが長時間に亘って崩されやすく、それは 「 予期せぬ不具合 」 を生じさせる原因にもなりかねないという。

しかも、歩行時の振動が大きく伝わると、安全装置が働いて緊急停止する仕組みがあるので、急停止に対応できず転倒する事故も少なくない。

危険な 「 将棋倒し事故 」 を防止するためにも、エスカレーターのメーカーや、数多く利用する鉄道会社などは、「 歩行禁止 」 を呼びかけている。


ちなみに、エスカレーターで片側を空ける慣習を導入したのは大阪のほうが早く、1970年の大阪万博あたりから、急速に普及、拡大していったらしい。

なにしろ大阪人は、歩行する速度が 「 秒速 1.6 メートル 」 と世界一で、エスカレーターに 「 じっと立ってられん 」 という “ イラチ ” な人が多い。

私も大阪人なので、当然 “ イラチ ” の部類に入るが、歳のせいか最近ではエスカレーターを駆け上がる頻度は減り、気づくと立ち止まっている。

若い頃は、ノンビリ、グズグズしたスローな女性が苦手だったけれど、最近は好みが変わりつつあるのも、そうした原因によるものかもしれない。

東と西で慣習が違ったり、“ イラチ ” と “ ノロマ ” の違いが 「 両者たがいに相合うことなし 」 なのも、永遠にそうとはかぎらないようだ。


前述の 『 東と西のバラード 』 でも、原作者のキプリングは 「 東と西が相合わない 」 ことを主張したかったわけではない。

馬を取り戻した青年が立ち去るエンディングで、キプリングは冒頭の言葉を述べた後、以下のように書き連ねて詩を終えている。

「 しかし二人の強い男が相合うとき、東も西もない。国境も、種族も、生まれの区別もないのだ。たとえ二人が地球の両端から来たのだとしても! 」

But there is neither East nor West, border, nor breed, nor birth, When two strong men stand face to face, though they come from the end of the earth!

キプリングは、「 東と西の本当の出会い 」 を語りたかったわけで、東西冷戦の終結や、私他諸々の出来事を振り返ると、実に感慨深いものがある。






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