Tonight 今夜の気分
去るものは追わず、来るものは少し選んで …

2007年01月15日(月) 007/カジノロワイヤル



「 あらゆる創作活動は、何よりもまず破壊活動である 」

                        パブロ・ピカソ ( スペインの画家 )

Every act of creation is first of all an act of destruction.

                                  Pablo Picasso



一般的に、同じことを何度も繰り返すと、マンネリ化して飽きられやすい。

しかし、質の高いマンネリは、むしろ安心感として歓迎される場合もある。


エンターティメントの場合、観客がたえず意外性を求めてるとはかぎらず、いわゆる 「 お約束 」 的な決め事に期待するケースも珍しくない。

たとえば 『 水戸黄門 』 は毎回、クライマックスで悪者を相手に水戸光圀の正体を明かし、往生際の悪い敵が歯向かうところを一網打尽にする。

たまに、少してこずったりすることはあっても、黄門一行が負けたり、悪党が逃げのびたりする展開はなく、観客もそんな意外性には期待していない。

これは、『 ウルトラマン 』 や 『 仮面ライダー 』 などの子供番組でも同じで、意外性より、勧善懲悪の 「 スカッとする結末 」 を聴衆は期待している。

渥美 清 が主演した 『 男はつらいよ 』 が長寿記録を打ち立てられたのも、全48作を通じて同じ失恋模様を繰り返したからこその所業である。


配給会社の松竹では、渥美氏が死去した後にも 西田 敏行 を代役として 『 男はつらいよ 』 のシリーズを継続するという計画が、実はあったらしい。

しかし、たとえ物語や作風が同じでも、主演俳優のイメージが劇中の人物とあまりにも同一化されすぎた為、役者が変わると 「 同じ味 」 が保てない。

観客の脳裏には 「 渥美 清 = 車 寅次郎 」 という図式が出来上がっていて、その世界観にどっぷり浸かっていたい人が劇場へ足を運んでいた。

その点が、前述の 『 水戸黄門 』 や 『 ウルトラマン 』 や 『 仮面ライダー 』 との大きな違いであり、主演俳優の醸し出す主人公像に拠る比重が高い。

上映中、観客は物語の展開などではなく、かねてより自分が抱くイメージをけして裏切ることのない主人公と、共に過ごす時間を楽しんだのである。


過去、ジェームズ・ボンド を演じた俳優は数人いるが、初期の作品から観ている人間にとって、最初に演じた ショーン・コネリー の印象は最も強い。

派手なアクションが伴うので、数十年間に亘って同一の俳優が演じることは難しく、また、極端に若い俳優では、独特の人物像が演出できない。

それで、たびたび俳優を替えながらシリーズを継続しているのだが、いまのところ、ショーン・コネリー を上回る評価を得る人物は現れていないようだ。

最新作の 『 007/カジノロワイヤル 』 では、シリーズ史上初めて、金髪で青い目の ダニエル・クレイグ が演じているというので観に行ってきた。

本家のイギリスでは賛否両論に評価が分かれており、「 彼を起用するかぎりは観ない 」 と言うアンチ派もいる一方、「 シリーズ最高 」 との声もある。


ボンド役の難しさは、「 強靭なる肉体 」 を持つのと同時に、オックスフォード出身の 「 明晰なる頭脳 」 を併せ持つという設定である所以だ。

加えて、あらゆるスポーツに通じ、グルメで、ギャンブルに強く、女性を虜にする風貌を持ち、オシャレで、ユーモアがあり、SEXの達人である。

そのうえ、世界情勢、地理、歴史に詳しく、格闘技、射撃の名手で、並外れた運転技術、冷静沈着な判断力、俊敏な反射神経を擁し、正義感の塊だ。

この設定による人物を演じようとした場合、たとえば、肉体の強靭さに拘ると頭が良さそうに見えなかったり、オシャレに拘ると正義漢ぽくは見え難い。

もっと単純にいうと、「 まったく非の打ち所がない男性 」 など滅多にいないわけだから、ほとんど 「 誰も見たことのない男性 」 を演じる必要がある。


最新作の ダニエル・クレイグ の場合、「 強靭さ 」 の面では過去最強ともいえる面構えだが、頭の良さ、品の良さ、博学さといった側面は伝わり難い。

また、これはスタイリストの問題かもしれないが、フォーマルウェアを除くと、普段着もスーツも着こなしが芳しくなく、少なくとも 「 ボンドらしさ 」 がない。

特に、ラストシーンで着用されるスーツにいたっては、借り物のように浮いていて、着慣れた感じがまったくせず、なんだか 「 七五三 」 のようである。

粋な要素に欠け、肉体のいかつさが目立つ割には、繊細なことで苦悩するような芝居もあり、過去のボンド像とは 「 脚本的 」 にも演出が違う。

角度によっては 「 ケビン・コスナー に似ている 」 ようにも見えるが、女性にモテまくる風貌とも思えず、親近感はあるが、カリスマ性に欠けたボンドだ。


本編を観てみると、主演はもとより、その他の面においても従来の作品とは革新的に異なる部分が多く、両方の意見がある背景について理解できる。

一番の変化は、流血場面があったり、格闘の翌日に生傷が残っていたり、不祥事をマスコミに報道されたりする 「 現実路線 」 への軌道修正だ。

事件そのものも、宇宙規模のファンタジー的な話ではなく、日常的に起こり得る題材を取り上げているので、現実的な話として感情移入はしやすい。

また、近作につきものの 「 近未来的な秘密兵器 」 に頼らず、銃と腕っぷしだけで勝負しているところは、初期作品の醍醐味に回帰していて面白い。

全体的に従来の作品と比較した場合、ユーモラスさや、粋な部分が少なく、緊迫感、血生臭さは増え、エロチシズムの代わりに切なさが加味された。


一見の価値アリと思える作品なので、未見の方のためにも 「 ネタばれ 」 となる記述は避けたいが、もう少しだけ補足しておこう。

今回は、「 007の誕生秘話 」 という設定になっているが、時代は現代で、第一作の 『 ドクター・ノオ ( 1962 英 ) 』 以前ということではない。

本作でシリーズ第21作目ということだが、この作品と、それ以外に分類してもよいほど、本作は革新的な違いが多く、従来の作品とは趣が異なる。

だから、映画としての評価は 「 面白い 」 といえるが、007シリーズ特有の 「 お約束 」 に期待して行くと、なんだか、しっくりしないのも事実である。

個人的には、「 本作をもう一度観たいとは強く思わないが、次回作は必ず観たい 」 という感想で、今後の展開に興味津々というところだ。






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