Tonight 今夜の気分
去るものは追わず、来るものは少し選んで …

2005年01月20日(木) 思い上がりしていた人々



「 我々は今や、イエスキリストより有名だ 」

                      ジョン・レノン ( 歌手 = ビートルズ )

We're more popular than Jesus Christ now.

                                JOHN LENNON



昭和32年、大阪の千林商店街に 「 主婦の店 ダイエー 」 は生まれた。

開店時の従業員数は、13名であった。


40年後、ダイエー・グループの従業員数は 「 13万人 」 を超えた。

しかしながら、平家物語の冒頭にある 「 盛者必衰 」 の言葉通り、その栄華もいま、息絶えようとしている。

彼らはどこで、道を誤ってしまったのか。

あるいは、はじめからそうなる運命だったのか。

巨大企業が崩壊する背景には、瞬間的な選択の誤りよりも、もっと大きな 「 何か 」 があったはずで、他社の経営者もそれを学ぶ必要がある。


数年前に、「 ユニクロ ( 社名:ファーストリテイリング ) 」 という企業が台頭してきた頃、彼らは業界の 「 厄介者 」 であった。

当時、けして 「 談合 」 というわけでもないが、衣料品業界では売価の水準を 「 ある一定のところ 」 で販売するという暗黙の了解があった。

そこへ、「 価格破壊 」 を旗印にして突き進む企業が出現してきたことに、業界関係者は戸惑いを隠せず、彼らの存在を良く思う者は少なかった。

有名メーカーは商品の出し渋りをしたり、あるいは彼ら向けに品質の劣った粗悪品を売りつけようとする不心得者も、少なくなかったのである。

それは丁度、「 主婦の店 ダイエー 」 が安売りで台頭してきた頃の様子に酷似しており、当時を知る人から 「 流通の革命児、再来 」 とも言われた。


その頃、ダイエーを含む大型量販店各社は経営不振に苦しんでいたが、その理由について、ユニクロの創業者 「 柳井 正 氏 」 は次のように語った。

最大の理由は、「 彼らは “ オーソリティ ” になってしまった 」 というもので、いわゆる 「 権威主義に走ったことが、失敗の要因 」 ということだった。

ダイエーとユニクロでは、価格を下げる方法や、販売の形態も目的も異なるが、あえて柳井氏はそこに言及せず、「 権威主義 」 を一番に挙げた。

当初、なりふりかまわずに 「 安売り 」 を看板にしていたダイエーの姿は、あまり格好の良いものではなかったが、それはそれで認められるという。

それがいつの間にか、企業の成長と共に 「 儲からないこと 」 をやってみたり、度々 「 儲からない方法 」 を選択する機会が多くなったのである。


これらは、彼らの 「 もはや安売り店ではない 」 という自負や、社会的地位の向上に伴う責任感のようなものにも起因しているだろう。

しかし、それだけではない。

規模が大きくなった影響で、当初の商売における 「 きめ細かさ 」 は失われ、ずいぶん荒っぽい拡大政策や、諸々の施策が目につきだしてきた。

社員が多くなり過ぎたことで、トップの経営理念と、現場担当者の判断にも温度差が生じ、簡単には修復できない亀裂も発生している。

特に、企業が成熟してから入社した社員の中には、それが自分達の努力による成果ではないのに、取引先に対して高圧的に接する輩も多かった。


最近の情報ではないが、かなりの店舗数までユニクロが隆盛してきた時も、ユニクロの社員は取引先に対し腰が低く、対応は丁寧であった。

あくまでも 「 売っていただいている 」 という姿勢で、かたやダイエーの若いバイヤーの中には、「 買ってやっている 」 という態度の人が多かった。

ダイエーでも、上層部の人々や、創業時の苦労を経験している人ほど腰は低く、彼らは威張ることよりも、取引先との信頼関係を大切にしていた。

ある高級幹部などは、「 こちらから頭を下げることで安くしてもらえるなら、いくらでも頭を下げます 」 と笑顔で語る人もいたぐらいである。

逆に、「 取引さえなければ殴ってやる 」 と、仕入先各社の販売担当者から憎まれていた若いバイヤーも、私の知るかぎりでも、かなりいたようである。


ダイエーの崩壊が決定的なものになり、過去の失敗を追及されだした現在でも、私は創業者の 「 中内 功 氏 」 に対しては、あまり悪い印象がない。

当然、重大責任があることも事実だが、裸一貫で何のコネもなく商売を始めて、これほどまでの大企業を一代で興した業績は、並大抵の力ではない。

問題は、社員のひとり一人まで彼の哲学を浸透させなかった点や、企業が大きいことで自分の身の程や役割を 「 思い違い 」 させた罪にあるだろう。

各々の利害という点においては、ダイエーの崩壊を窮地と思う仕入先でも、感情的にはダイエーの社員が 「 苦しめばよい 」 と思っている人も多い。

彼らから脅迫まがいな要求や、高圧的な態度を押し付けられ、苦しめられた仕入先も数限りなく、それは 「 ビジネス以外の部分 」 にも及んでいる。


大企業に入ることも、そこで出世を目指すことも、悪いことではない。

ただし、「 偉くなる 」 ことと、「 偉そうにする 」 ことは違うし、所属する企業や、そこで与えられた評価が、人間の優劣を決めるものでもない。

不確かな 「 権威 」 に翻弄され、それを振りかざしたり、振りかざされたりしたところで、何の実利も得ないばかりか、ロスになることのほうが多い。

今後、ダイエー関連で多くの失業者が生じ、再就職に向けての活動を開始することになると思うが、そこで彼らも 「 己の市場価値 」 に気づくだろう。

常に、どんな立場にいようとも、空虚な権威など忘れ、自己の 「 真の実力 」 と、与えられた責務や役割にのみ集中することが、なにより肝心である。







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