Tonight 今夜の気分
去るものは追わず、来るものは少し選んで …

2004年03月20日(土) 接客のスキル


昔、商談後の宴席で、某大手紳士服チェーンの社長と話す機会があった。

そこでは少し、お酒の効果もあって、普段とは違う 「 本音 」 を伺えた。


当時は、現在ほどではなかったものの、バブル崩壊による販売不振が深刻な問題となり始めていた頃で、「 右肩上がり 」 に急ブレーキがかかった。

そこで、冷え込んだ消費者の購買意欲を取り戻すため、各企業がこぞって行ったのが 「 低価格路線 」 への切り替えである。

それは、今日の 「 デフレスパイラル 」 に繋がる分岐点で、価格を下げるためなら、多少の品質低下もやむなしという風潮が、徐々に広がりだした。

ただ、すべての企業が同じ手法に走ったわけではなく、中には、最低限の品質と価格を保ちながら、ブランドイメージの向上に努める企業もあった。

そういったお互いの企業が持つ 「 政策とポリシー 」 の違いから、私のいた企業と彼らは、自然と取引の規模を縮小せざるを得ない状況であった。


商談中の彼らは、「 高い商品が売れなくなった理由 」 を、バブル崩壊後の経済情勢によるもので、それは 「 不可効力 」 であるが如く主張した。

たぶん、そういった主張を繰り返していた人の大半は、それ以外に考えられないといった様子で、その論拠を信じきっていたようである。

しかし、その社長は、各店舗の実態を見極め、違う意見を持たれていた。

彼は、真の理由を、「 各売場に配置した店員の、接客能力の低下 」 によるものだと考えていたのである。

ただし、それに対する効果的な改善策がとれない以上、企業のスタンスを低価格路線にシフトするしかないというのが、偽らざる心境であったようだ。


バブル期は人々の消費行動を活発にし、その影響は、衣・食・住 あらゆる分野に興味をもたらす結果となった。

当時、ビジネスの世界では 「 最近の消費者は賢くなった 」 という言葉が、まるで流行語のように飛び交っていたことを記憶している。

メーカー側も、競って自社ブランドの優位性と付加価値をアピールすべく、各種メディアを利用して、製品の細かいディテールなどを伝えた。

そのため、本来なら知るはずのない詳細な知識を、一部の消費者が蓄え、誇らしげに 「 ウンチク 」 を語ることが、一大ブームとなったのである。

80年代の グルメブーム や、DCブランド の隆盛などは、まさにそういった部分から端を発しており、それが文化を形成していったのだ。


では、消費者が製品知識を武装すると、どういうことが起きるのか。

それまでは ショップの店員 から、意味のわからないセールスポイントを推され、薦められるままに買っていたという状況が一変する。

店頭販売員の大部分は “ 素人に毛の生えたような ” アルバイト店員なので、もはや知識を武装した消費者は、購入時の選択を頼らなくなっていく。

実際、勉強不足の店員がウカウカしていると、顧客のほうが商品の特性について詳しかったりするため、「 店員への信頼性、依存性 」 は急落する。

最近の例でいうと、たとえば PC に詳しい人が、町の小さな電気屋さんよりも知識が豊富だったりすることも、まったく珍しい話ではない。


それだけが原因ではないが、時代は百貨店などの 「 接客販売型 」 から、量販店などの 「 セルフセレクション型 」 へと、変貌を遂げたのである。

名目上 「 ファッション・アドバイザー 」 などの肩書きを持った店頭販売員を置く大型紳士服量販店なども、昔ほど、店員がしつこく接してこない。

そんな中で、バブル期に売れた商品は 「 メディアで取り上げられた商品 」 や、巷で噂の商品などが売れ、知名度の低い商品は売れなかった。

衣料品でいうなら、おそらく ユニクロ が台頭してくる以前は、知名度の高い安物が存在しなかったので、「 高くてもブランドが売れる 」 時代であった。

未曾有の好景気に支えられて、メーカーは溢れるばかりの情報を発信し、消費者は潤沢な商品知識と豊かな可処分所得をもって、買い物に走った。


やがてバブルは崩壊し、今度は消費が低迷する 「 平成不況 」 が訪れた。

不況期に、企業が真っ先に予算を削減するのが 「 広告宣伝費 」 である。

また、経費の中で大きな構成比を占める 「 人件費 」 については、たえず売上の進捗に応じて見直されることになる。

つまり、メーカーからの情報発信が無くなり、店舗人員の人配率が低下するという状況が、徐々に広がっていくのである。

セルフ販売への流れは、バブル期は、消費者の知識が豊かなため、店員の必要性が減少して進み、今は人件費の削減から、やはり進んでいる。


よく考えればわかる話だが、バブル期に商品の情報量が多かったといっても、それは所詮、メーカーに都合のいい情報に過ぎないのである。

それぞれ、「 うちの製品は、ここが優れている 」 という主張はするが、粗悪な商品の見分け方や、本当に有意義な特徴かどうかは、あまり伝えない。

その情報すらも途絶えた今、消費者に 「 価値のある付加価値 」 を見極める術などなく、しだいに高額商品は売れ難くなっていったのである。

品物を見極められない消費者でも、指標にしやすいのが 「 価格 」 である。

その商品が良いか悪いかは判断し難くても、値段が高いか安いかは素人でもわかるし、折りしも不況の影響を受け、低価格路線に火がついたのだ。


長くなったが、セルフ化が浸透した時代だからこそ 「 接客 」 というポイントは、競争に勝ち抜く重要な鍵になっているような気がする。

人件費を削減しつつ、接客のスキルを向上させるというのも至難の技だが、たとえば飲食店などは、欧米のような 「 チップ制 」 の導入はどうか。

賃金は高くないが、顧客の満足度によって従業員へ直に報奨が与えられるという仕組みは、経営の負担を軽くし、顧客の印象を高め、従業員が潤う。

国内で実施する場合に、税制や、法務上の問題があるのかもしれないが、接客販売業に携わる人たちのスキルが上がるなら、試す価値はある。

欧米並みに習慣化して、義務的に支払われるようになっては意味も薄いが、愛想の良い店員が増えたら、少しは社会も明るくなるように思う。






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