忘れちゃいけないこと。


6月30日。

実は、あたしたちが働いてたお店が閉まることになって。
その日はお店で打ち上げパーティだった。

彼と顔を合わせるのが気が重くて、少し遅れて行った。
でも彼もまだ来てなくて。
彼がきたのは随分と経ってからだった。

みんなバーカウンターに座ってて。
彼はお酒作ってあげてたのかな。
あたしは違うフロアーでずっとワイン飲んでて。

元々お酒弱いちぃだから酔っ払っちゃって。
すごい楽しいふりしてた。
実際、どこから酔っ払ってたのかわかんなかった。

トイレ入ったらね、どうしても涙出てきちゃって。
外に彼がいること考えたら、出ていけなくなっちゃって。

そしたら大ちゃんが心配してきてくれたの。

それで、ずっといてくれた。
今考えてみたら、大ちゃんも辛かったんだとおもう。
別れたさくちゃんが他の男のコといるの嫌だったのかな。


あたしはもう自分のことしか考えてなかったけど。


もう彼がどうおもうかとか、気にする余裕もなかった。

本当のこというと1ヶ月くらい前から精神的にひどくって。
眠ってもすぐに何度も目が覚めて。
夢と現実の境目すらはっきりしない頃もあった。
かとおもえば、2日間で30分しか眠ってないのに
異常なくらい元気でハイになって余計眠れなくなったり。
それから体重もいちばんひどくて7キロくらい減って。

そのときから、ただ『消えたい』って気持ちが強かった。

とにかく苦しくてたまんなくて。
どうやってでもぃぃから、息がしたくて。



昔みたいに壊れてしまうんじゃないかって。




あの頃の自分に戻ってしまったらどうしようって怖かった。
果物ナイフもはさみすらも、変に意識しちゃって。
いつのまにか考えるのはそのことばっかりになってた。

ここまでくると、誰にもなにも言えなくなった。
大ちゃんにはもちろん、さくちゃんにも。

マキとすら話すのが嫌になった。


でも、その日はお酒の力なのか涙と一緒に情けない言葉が。
次から次に溢れ出て止まらなくなった。

大ちゃんも、マネージャーすらも泣かせちゃった。

あの頃と一緒なの。
あたしがいるとまた、周りみんなを苦しめるんだ。

自分の苦しさを人に背負わせるの。


彼の姿がみえなくなって、その隙に帰ろうとしたのに、
まだ酔いが覚めなくて帰れなくて。

大ちゃんがいなくなった隙をついて、
ちぃはお店を出てひとりでふらふら歩き出した。
携帯は車のなかに置きっぱなしで。


まだ、彼と付き合うちょっと前にね、
大ちゃんとマネージャーと彼とあたしの4人で、
明け方の寒空の下をお散歩したなぁ、なんて思い出した。


どうしても戻れないのかな。

どうして。


「気持ちは積み重ねるものでしょ」だなんて
土台がしっかりしてないんだもん、それすらも無理なのね。

彼とのことばっかり考えて。
だんだん酔いも覚めてきたらまた悲しくて。

急に帰らなきゃっておもった。

それで車に戻ろうとしたら、遠目に彼がいるのが見えた。
好きな人をみつけるのだけは昔から得意だったのよ。


ちぃは隠れて動けなくなって、それで逃げた。


でも見つかった。
さくちゃんが後ろから「ちぃがいた!」って叫んで。
社員さんがお店から飛び出してくるのがみえた。

「ちぃ、顔真っ青だよ」

彼が2階から降りてくるのがみえた。
その姿がスローモーションみたいで現実的じゃなくて。

「ごめんなさい」

あたしを怖がってるような目をしたさくちゃん。

あたしは彼から逃げなきゃっておもって、ただ車を出した。
駐車場の出口で、横目に彼が映った。
もうあたしは彼の顔すら見ることができなかった。

ずっと鳴りっぱなしだった携帯。
ずっとずっと、彼がかけてくれてた着信。
それも充電がきれて途切れた。

充電器を差して、でも怖くて電源がいれられなかった。

なにが怖いのかわかんなかったから、
だからとにかくなにもかもが怖くて仕方がなかった。


大勢の人の前で、彼を悪者にしたの。

もう向き合おうとすることすら考えられなかった。


しばらくしてさくちゃんにメルして。
そのままお兄ちゃんのお家まで逃げた。

なにも考えたくなかった。
ただ逃げたかった。


酷いことしたって、今ならわかるの。

わかるのにな。
2006年07月07日(金)

魔法がとけるまで。 / ちぃ。

My追加