新知庵亭日乗
荷風翁に倣い日々の想いを正直に・・・

2002年10月10日(木) おじいちゃんのヴァイオリン




Shinchanの事を一番心配していたのは、お父さんのお父さん、おじいちゃんでした。「お前が仕事ばかりにかまけるからShin坊の口が遅れてるんや」とお父さんを叱っていました。
 Shinchanはおじいちゃんのお家に行くのが大好きです、それは阪神電車という電車に乗れるからです。
阪神電車はかっこよかったのです、一番前が流線型でおもちゃの飛行機のようでした。お父さんを引っ張って、もちろんShinchanは一番前に乗ります、そして梅田駅で降りて、地下鉄に乗りかえるのも好きでした。
 「Shin坊よう来たなー、そうかヴァイオリンか、よしよし弾くからな」と言っておじいちゃんは演奏をはじめます、
「・・・・」

「未だShin坊にはこれ大きすぎるんや、この曲はなドボルジャークの新世界ちゅうんや・・・」

元満州映画会社、現在は毛沢東の像が立つ長春電影宮


「おじいちゃんはなー、満州というところで映画を作る仕事してたんや、オーケストラちゅうてたくさんのヴァイオリンやラッパや太鼓でな、大勢の人で楽器弾いて、映画に音楽をくっつけるんや、Shin坊は映画見たことあるか?」
「・・・・・?」
「そうか、今度一緒に行こか、それでな、おじいちゃんはその時、仲間の国やったドイツのベルリンという所へ音楽家を呼びに行った事も何回かあったんやで、あんな素晴らしい音楽を作った国やのになあ、日本と一緒に戦争負けたんや、戦争はあかん」

「満州はひろーい国でな、おっきな真っ赤な太陽が建物も何にもないひろーい畑の向こうにしずんでいくんや、寂しゅうて寂しゅうてな、こうやって、新世界の曲を、よーヴァイオリンで弾いてたんや」







「・・・・・」
「Shin坊がヴァイオリン弾くんやったらなー、おじいちゃんがドイツの音楽学校に行かしたる、そやから、よーピアノで音符読めるようにしとき」

「この音はラやけど、ドイツ語ではアー、ちゅうんや」
「・・アー・・」
「ほら言えるやんか、そしてレはデー、ソはゲー、そやここを押さえるんや」
 
おじいちやんは寒いのに顔に汗かいてました。
「ツェツェゲゲアアゲ、きらきら星やな・・・そやそや、弾ける弾ける!」
「・・・チェ・チェゲゲアアゲ・・・」
「Shin坊、歌えるのか、そうかそうか、Shin坊はおじいちゃんの血を一番引いてるなー、よし決まりや、Shin坊はヴァイオリン弾いてドイツに勉強しに行って、帰ってきたらな、おじいちゃんが朝比奈君に言うたるさかいオーケストラに入るんや、んにゃ、世界中に演奏旅行するんや」
「・・・おふね?」
「ちゃうちゃう、飛行機や、沢山飛行機乗って外国に行くんや、Shin坊が大人になったら、いろんな国の人と一緒に音楽作るんや、覚えときや」

 おじいちゃんの目は遠いお空を見ているようでした。そして又新世界の音楽を弾いてくれました。



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