2003/6/23 18:18
今日はゼミだった。教授がいなかったので、何もしていないことは特にとがめられなかったが…。だからいいというものではないだろう。
それはそれとして、今後の見通しが立ってきた。僕は基本的に、教授の考えるシミュレーションプログラムを開発するということをやっている。卒論を書いたことがある方なら分かると思うが、これはそもそも、厳密には自分の論文とは言えない。論文を書く上で最も重要なのは、(意見はいろいろあるだろうが、一般に)なにを書くか、である。何のために、なにを書くのか。本来は、この点を自分で決めなければ始まらない。
しかし、これはきわめて難しい。論文を書くためには、過去の人類の知識をすべて知っている必要がある。もちろん、理想的には、だが。なぜなら、あらゆる人類の知見は、それまで人類が築き上げてきた知見の上によって立つものだからだ。これまでに知られていることを発表したところで意味を持たない。あくまでも新しい内容でなければならない。
新しいだけではなく、有意義でなければならない。もちろん、数学や文学の基礎研究ではこのような点が強調されることは少ないだろう。しかし、それは意義がないということにはならない。そもそも、意義があるかどうかを判断することが難しいのだ。整数論なんて何の役に立つんだ、などと20年前の工学者は言ったであろうが、今の時代にそんなことを言う工学者は、高校から勉強しなおしたほうがいい。整数論はいまや、暗号化技術の根幹としてなくてはならないものになっている。コンピュータの処理が整数でなされているからだ。
と言うことで、未来を見通した上で、意義のある研究をしなければならない。僕が思うに、これを普通の学部学生が考えるのは無理だ。それをあえてやっている研究室もあるが、膨大な論文に毎日目を通し、朝から晩まで研究室にこもりきりになっている。それでも、結果的に自分たちでテーマを決められないことが多いと言うのだ。
…ああ、彼女が帰る時間だな。先週、それに合わせて走っていったのを思い出す。純情なのか頭が悪いのか…。まあ、後者だろう。
ということで、「教授のシミュレーションプログラムを開発する」ということは、この最初の段階を初めから飛ばしている。なぜなら、大枠は教授が決めているからだ。
で、まずは「船長のモデル」を設計することになった。これはこのシミュレーションの基礎となる部分である。それぞれの船長が独自に判断をしたとき、船舶の群れはどのような挙動を示すか。それを調べるのがこのシミュレーションの目的だからだ。そんなものを調べてどうするのか。
1つは、交通安全に寄与することだ。船長の思考パターンを分析してシミュレーションし、再現できたのなら、危険度の高い状況が再現できる。そこで、してはならない判断を調べたりすることができるようになると考えられる。2つ目は、そもそもそのような環境を準備すること自体に意味があるとするものだ。既存の航路計画の中に新しい船舶が加わった場合、それぞれの船舶の挙動がどのように変わるか。現実に実験することが難しいことを、シミュレーションなら簡単にできる。もっとも、シミュレーションというのはジャンルを問わず、そういう目的に使われる場合は多いようだが。
船長のモデルを設計すること以外に、シミュレーションの事例を集めることも指示された。世の中のシミュレーションプログラムを知っておけば、自分がシミュレーションプログラムを開発するのにも役立つだろうという、きわめてもっともな指摘だ。自分で気づかなかったのが不思議なくらいだ。
ということで、これから数週間は調査に明け暮れることになるだろう。そんなときにバイトなんてしていていいのだろうか。図書館で彼女に会えるかな…、なんて余計なことを考えていたら、きっと卒論の作業はまったくはかどらないに違いない。
2003/6/23 18:34