汐路丸実習1日目
6月12日10時22分記入 天気は霧雨。面倒なので気温等の諸条件は省略。 羽田空港沖。汐路丸の船室にて。
乗船実習の1日目。 いつもと違ってノートパソコンのワードパッドで書いているので日記という感じがしないが、 とにかく、実習中の日記を書くことにする。
朝の起床時刻は5時。 呆れるほどの早さであるが、8時15分集合という条件を 余裕を持って満たすためには、このくらいの時間に起きなければならなかった。
この日は、耳元を蚊が飛んでいたり、 弟が捕まえてきたクワガタ虫が逃げ出したりして、 まともに寝ることができなかった。 寝られたのは正味3時間と言ったところだろう。 しかし、緊張感からか眠くは感じなかった。
大学に着いたのは7時半。 余裕を持とうとして、かなり早く着いてしまった。 友人も早く着いていたので、 彼と一緒に乗船実習中に必要なカロリー…。 平たく言えばお菓子と飲み物を買いに行った。
それから、小舟に乗って4日間過ごすことになる船、 実習船汐路丸に乗り込んだ。 レポートの課題なので記しておくが、 汐路丸の全長は49.93メートル。 全幅が10.0メートル。 喫水は3.9メートルである。 ご存じの方は少し妙に思われるかも知れないが、 ヘドロがたまった隅田川に出入りしなければならない必要上、 サイズの割には喫水が浅くできている。 そのために、実によく揺れる船でもあるのだ。 ついでに言うと、理由はよく知らないのだが、 船体が傾いたとき修正する方向に働く力、 つまり復元力もかなり大きくなっている。 そのため、まっすぐに戻るところを通り越して 反対側に傾いてしまったりする。 するとどうなるか、というと、 まるでバネのように、一度傾くだけで、 何度も何度もグラグラと揺れ続けるのだ。 慣れない人間には刺激が強いらしく、 これで何人もの学生が体調を崩していた。
一方、僕の方なのだが、 僕は自他共に認める虚弱体質である。 そのため、当然酔ってもおかしくないのだが、 僕は仕事のない間はずっと、甲板に出ていた。 ご存じの方も多いかとは思うが、 今の時期、台風4号が関東地方に接近していた。 (6月12日現在では、熱帯低気圧に変化している。) そのために、東京湾には常時強い風が吹き荒れていたのだ。 だから、強い風に吹かれていて、酔うどころではなかった。
コースだが、隅田川から出て、 そのまま東京湾を南下し、館山に入る、というもののはずであった。 しかし、上記のように台風4号が接近していたため、 予定を変更し、午後の2時頃に出発して、 羽田空港沖に投錨した。 船の錨だが、これは文字通り投げ捨ててしまう。 そして、重力加速度によって加速され、海底に突き刺さるのだ。
甲板にはほとんど人がいなかった。 僕と、他の友人が数人いただけだった。 その友人も入れ替わり立ち替わりしていたのだ。 ずっと一緒にいたのは、僕と前の日記に書いた彼女だけだった。 なかなかまともに話す機会を持てなかったので、 ゆっくり話せてとても楽しかった。 ただ、友人が妙な勘ぐりをしていたが、 前の日記にも書いたように、そういうつもりは僕にはない。 たぶん、向こうにもないだろう。 もしそういう気があるのなら、ずっと2人でいたのだから 何かの素振りを見せてくれてもいいような気がする。 もちろん、彼女の性格や考えていることなんて読めないし、 いったいどういうつもりだったのかなんてまったく分からないが。 もしかしたら、とっとと帰りたかったのに 僕が引き留めるような形になって、帰れなかっただけかも知れないのだ。
2日目の分も、この時間までのことは書こうと思う。 起床は6時半。 教室には6時40分に行ったのだが、少し遅刻気味だったようだ。 そうそう。さっきまで書いていなかったが、 意外にも船の食事は豪華であった。 11日の昼が、 あじのフライとコロッケ、せんキャベツに、ご飯とみそ汁。 夕方は驚くべきことに、 ローストチキンとウインナー、ご飯とみそ汁。 …ちなみに、どちらも漬け物などの細かいものは書いていない。 それ以外にも、思い出せるものしか書いていない。 僕は健忘症気味なので、前の日に食べたものなど思い出せないのだ。 だからこうして日記を書く、というのも1つの理由なのだが。 とにかく、ローストチキンには驚いた。 まさかこれほどのものが出されるとは…。 しかし、税金で動いているはずのこの船で、 それほどの贅沢をしてもいいのだろうか? この練習船汐路丸は、 国立大学である東京商船大学の所有、 つまり、独立行政法人化していない現在では、 まだ国家の所有物である。
それで2日目の朝の食事は、 ご飯にニラのみそ汁、焼き魚、ひじき、 であった。 ローストチキンは特にそうだったのだが、 女性陣にはこれを片づけるのは相当きつい仕事だったようである。
食事の前には掃除をしたが、 掃除については特筆すべきことはない。 そのあと、僕たちの班は船橋担当になった。 僕はマイクで船内に放送をした。 まあ、これも特に言うほどのことはないのだが。
そのあとには、操舵実習を行った。 要するに舵を取るのである。 この操舵実習については感想文を提出することになっているので、 少し丁寧に書こうと思う。 これをそのまま提出してしまうつもりだ。 まあ、このままではあまりにもガキっぽい気もするが、 「感想文を提出せよ」という課題そのものがガキっぽいし、 問題はないだろう。
その前に、基本的に何をするか、ということなのだが、 実際は、船長、もしくはそれに準ずる職員の指示に従うだけである。 その際、英語、それも慣用的な特殊な英語を用いる。 海事英語というやつである。 もっと一般的に言えば専門用語と言ってもいい。 そのため、頭がいいとか悪いとかいうことは、あまり関係ない。 理由は知らないが、starbor'dが右で、portが左である。 指示は、"Port five."というふうになされる。 受ける操舵手は、聞いた瞬間に"Port five, sir."と返す。 それから、指示通りに左5度方向に舵を取り、それが終わった時点で再び "Port five, sir."と返す。 1回目は命令を聞いたことを確認する意味であり、 2回目は実行したことを報告する意味である。 実行の報告はともかく、聞いたことを確認する必要なんてあるんかいな、 と思われる向きもあるかも知れないが、 この1回目のアンサーバックには命令の確認以外にも 船長が自分の意思を確認する、という意味もある。 船長も人間だから、たまには考えていることと違うことを口走ったりもすると言うのだ。 そのため、実際の流れとしては、 "Port stear 150°." という指示のあと、"Port stear 150°." と返し、それから"Steady on 150°."という形になる。 2回目は報告であるために、同じことを2度言わないこともあるのだ。
それで肝心の感想なのだが、 まず、保身がかなり難しいと思った。 舵をまっすぐにしていてもすぐに船が横にそれて行ってしまうからだ。 …考えてみれば、日記は多少なりとも 説明的にならざるを得ない。 これでは、レポートとしての提出は無理そうだ。 まあ、あとでまとめて出せばいいだろう。
それから、慣れていないとアンサーバックが難しい。 操舵手はアンサーバックの他に、 現在の船の方角も報告しなければならない。 そのために、ごちゃごちゃになってしまったりするのだ。 …まあ、本格的にやるならもっと対策を練るのだろうが、 あくまでもこれは東京商船大学の学生として 最低限の教養を身につけるのが目的だ。 商船大を出てるんだから、舵を取ったことくらいはありますよ、 と言えればそれでいいのではないだろうか?
//(了) 2002/06/12 11:42
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