夏撃波[暗黒武闘戦線・歌劇派]の独白

2005年03月14日(月) 自分詩「無条件幸福〜敗戦の日に〜」


 ジュン、
 あなたは私の子ども
 ジュン、
 あなたは私の宝物
 
 あなたが生まれた日のことを
 今でも覚えている
 待望の男の子の誕生に
 わが家は喜びに包まれた
 でも
 それも長くは続かなかった

 いつになってもコトバを発することなく
 視線も合うことがなく
 何かがおかしいと感じていた
 意を決して病院の門をくぐる
 いくつもの病院をまわって
 結果は「自閉症」との診断

 ジヘイショウ・・・
 私、障害の子を産んでしまったんだわ
 これからどうすればいいのか
 考えは同じところを何度もめぐり
 あなたを抱え、途方に暮れるばかり

 ジュン、
 幼い頃のあなたはよく動き回ったものよ
 奇声を発するあなたに人々は振り返り
 鋭いまなざしをこちらへ向けた
 人々の噂する声がめぐりめぐって
 私の耳に入ってきた
 「あの子の親、どんなしつけをしてるの」
 「あの子があんなふうになったのは、
 母親の注意が足りなかったせいよ」

 忙しく動き回るあなたを追いかける日々
 追いかけても追いかけても
 するりと逃げていくあなた
 こんな毎日が続いて
 私はこのまま年老いていくだけなのか
 先行きの見えない生活に
 疲れ切っていた私

 ある晩
 あなたの枕元にひざまずいて
 私はあなたの首に手を押し当てていた
 パッと目を覚ましたあなた
 二つの瞳が私をまっすぐに見た
 両の目から放たれる透明な光
 その時、私の頬を涙が伝った

 あなたには何の罪もないのに
 本当はあなたがいちばん苦しんでいるはずなのに
 ジュン、ごめんなさいね
 本当に悪いお母さんね
 
 あなたはキョトンとして
 いつまでも私をみつめていた
 随分前のことなのに
 昨日のことのように記憶がよみがえってくるの

 そういえば
 昨日もあなたの夢を見たの
 あなたが幼かった頃のように
 追いかけて追いかけて
 私はやっとあなたをつかまえるの
 そして私はこう言ったわ
 「ジュン、あなたにはかなわないわ。
 母さん、もう無条件降伏よ」
 ジュンがそれに答えてこう言うの
 「そうか、実は僕もね、ムジョーケンコーフクなんだ。
  僕、母さんの子どもでよかったよ。
  だって、だって、すごくハッピーだから」

 人生は闘いの日々
 私の一生は玉砕につぐ玉砕
 それこそ負け戦に違いない
 でも、でも、
 それでもいいのだ
 私は、あなたという天からの授かりものを得て
 無条件に、無条件に幸福なのだから

<解説>
 私の兄は「自閉症」という障害を持っている。これまでそのことを取り上げた詩はごく限られていた。今回発表した新作は、障害者の親の立場を想像しながら書いた作品だ。自分のこととか家族のことについては、あふれる思いにコトバが追いつかず、なかなかうまく書ききれないものだ。けれども、今後はそうした自分のルーツにかかわる事柄について、しっかりと表現していきたいと考えている。


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