夏撃波[暗黒武闘戦線・歌劇派]の独白

2002年11月01日(金) 真実とは

 何が真実であるか見極めるのは難しいことだ、という話題からスタートしよう。
 チェチェンの武装集団によるモスクワの劇場占拠事件は、人質100名以上が死亡するという最悪の事態をもって終結した。マスコミ報道では、立て籠もったチェチェン人の側を「テロリスト」と断じ、また「アルカイダ」(イスラム武装勢力)との関係を匂わせることにより、一方的に悪者扱いする論調が目立っていたような気がする。しかし、そもそもあのような事件が起こる背景には何があるのか、想像力を働かせてみる必要がある。
 自らの死をも恐れず人質をとって立て籠もる、あのような行動は相当に追い詰められた人間にしかできないことではなかろうか。その背景には、ロシアによるチェチェン人への度重なる民族弾圧の歴史がある。住民の大半がイスラム教徒であるこの地域は、19世紀後半に旧ロシア帝国により武力併合された。以後、断続的にチェチェン人の抵抗が続いている。1991年、チェチェンが独立を宣言してから、独立を潰すためロシア軍はチェチェンに度々侵攻。住民もゲリラも区別ない攻撃を繰り返し、2000年2月に首都クロズヌイを制圧した。チェチェン人は占領下での不自由な生活を余儀なくされている。
 先日の劇場占拠事件にあっては、チェチェンの武装集団を殲滅するばかりか、100人を超えるロシア人人質の犠牲を生む結果となった。特殊部隊突入の際に国際条約で禁止されている毒物が使用された疑惑が持たれているが、いずれにせよ、ロシアの現体制がいかに人命を軽視しているかを窺い知ることができた。
 ニューヨークでの同時多発テロ以降、「反体制勢力」への報復にあたって一般市民(無辜なる人々)に多少の犠牲が出るのはやむを得ないとする空気が感じられるようになってきている。プーチン(ロシア連邦大統領)にせよ、ブッシュ(アメリカ合衆国大統領)にせよ、人間の尊厳をも顧みることのないデリカシーに欠けた人物であるが、一方に彼らを支持する無自覚な民衆の存在があることも確かだ。
 大体、北朝鮮の核開発問題にしたところで、そのことを最大の核保有国たるアメリカが批判することなど、厚顔無恥も甚だしい。そしてまた、そんなアメリカに追随する日本政府の主体性のなさはあらためて言うまでもない。

 連日、北朝鮮による日本人拉致問題がニュースで流されている。拉致被害者や家族の側に立てば、確かに許し難い事態ではある。だが、そのことを踏まえた上で、かつて旧大日本帝国が朝鮮半島の人々に行ってきたこと(強制連行・強制労働・従軍慰安婦問題等)にまで想像力を働かせてみる必要があろう。今日の日本は、旧大日本帝国と非連続に存在するわけではない。拉致問題に対して謝罪や補償を求めるのはいいとして、その前に私たち日本人はかつての戦争犯罪に関して果たして真剣に向き合ってきたのか、あらためて考えてみるべきではなかろうか。他者に対して毅然とした態度をとるためには、何よりもまず自らに対して厳しくあらねばならぬであろう。

 さてさて、私共の芝居に関してであるが、舞台のセットなどはだいぶ整い、あとは役者に負うところが多くなった。個人的には、ある程度自信をもって演じている部分と、迷っている部分とが二分されている。最終的には開き直ってやるしかないと思うし、これまではそれで何とかなってきた。稽古ではあれこれと考えすぎて深みにはまってしまう私だが、これまで本番では不思議と落ち着いて完全燃焼してきた。今回もきっと大丈夫と信じて進んでいくしかない。ついに本番2週間前までやってきた。


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夏撃波 [MAIL]