バカ恋 | back index next |
■ ハイパーリアリティ ■ 両親に此処を離れるという事を伝えるために、 実家を訪れた。 そもそも、うちの両親は、子離れできない哀れな親で、 参拾過ぎの娘に対して、未だに色々と文句を言う。 特に父上は、モン吉命!トン吉命!みたいな処が或るので、 あたしらが引っ越す等と申せば、発狂する事間違い無し。 出来得るだけ、安泰に、平穏に、事無きを得たいと考えているので、 彼是、様々なシテュエイションを展開させつつ、 申すべき台詞を何度も練習してみた。 ピンポーン 何時もと変わらぬ顔で母上が出迎える。 父上は留守だった。 トン吉は既に上がりこんでいて、TVを見てゲラゲラ笑っていた。 此処は平和だな 何時もどおり、母上と一緒に夕飯を食べる。 近所のスーパーで安売りしているとか、 夏物の洋服が欲しいから、一緒に買いに行こうとか、 やっぱり捕りがけの竹の子は美味しいとか、 此の前、TVで素敵な温泉宿が出ていたとか、 そんな話をしながら、夕飯を食べる。 此処は平和だな まだ父上は帰ってこない。 取り敢えず、風呂に入った。 風呂に入りながら、どうやって切り出そうかとまた考えた。 髪の毛を洗いながらまた考えた。 体を洗いながらまた考えた。 此処は平和だな 風呂から上がっても、父上は帰ってこなかった。 やはり両親二人揃った処で話をするのが一番だと思ったので、 何も言わずに帰ることにした。 何時もと同じ様に、おやすみと帰ることにした。 此処は平和だった 話はまた次の機会にする事にしよう。 母上の笑顔が切なかった。 気合入れて行ったのによぉ!何で帰って来ねぇんだっ!おやぢっ!! |
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