カタルシス
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小学校時代からの幼なじみが転職を決めたので、その前祝いをすることになった。彼女は小学校低学年の時 学童保育で一緒になって以来親しくつき合っている友人で、その後中学・高校とも同じ学校に通っている。高校に至っては普通科ではなかったので、3年間同じクラス。その間色々あったけれど、卒業後も時々会って遊んでいた。
高校卒業後少しの間フリーターをたあと デザイン事務所に入社、以来ずっと同じ職場で働いていたが 昨今の不況のあおりからか個人経営の事務所の状況はついぞ厳しいものとなる。その他様々な理由が合わさったこともあって、初めての転職を決意するに至ったようだ。
手堅い彼女はきっちり次なる職場を見つけていた。面接の前日に会った時に聞いた話だと結構世間に知れた仕事をしている事務所で、やり甲斐はありそうだが その分大変そうだ。と随分心配そうな表情。私に言わせたら 社会に出て今までに相当のキャリアとスキルを身に付けた彼女が どうしてそんなに自信な気にいるのかが不自然に見えたが、初めての転職で勝手が分からないのが不安なのかもな… と納得しておいた。
一つの仕事を任されて企画から関わりコンテやラフを切って、撮影から小物作りに至るまで取り仕切れるようになっていく彼女をリアルタイムで見てきた。社会の常識もヘタな年配者よりも 余程心得ていたし、元来の性格でキッチリハッキリしたところがあるのもビジネス向きだと思っていた。突き放すような態度も取るが面倒見は良いと知っているし、負けず嫌いな人だから言ったことは完璧なまでにこなす。大変な思いをしていても、それをわざわざ他人に訴えたりはせずに黙々とクールな顔をしている。カッコイイ女性の代名詞のような人だ。 根拠こそなかったが、そのスゴい事務所に縁があったのは運命だと思えた。私は「その事務所きっと向いてる。この人のプラスになる。」と思いながら 「多分やってけるよ。頑張んなよ。」としか言わなかった。 絶対なんて言えないし、また言ったところで彼女の気分を害するだろうと思ったから。口先だけの軽はずみなことは好かない。そういう人だから。
面接で「健康に自信はありますか?」といきなり聞かれたらしい。「残業はほぼ毎日です」「徹夜もあります」早々に言い放たれた。つまり、そのくらい覚悟して来てくれるんでなければ必要ない。ということなんだろう。これまで一人で仕事をしてきた彼女だから、残業も徹夜も経験済みだ。辛いものしんどいのも知っている。 その上で 首を横に振らずに帰ってきた。 宿題を出されたと言っていたが、その様子を聞いた限りでは8割方採用だろうなぁ…と思った。もちろん根拠のないことだから口には出さなかったけれど。 ほどなくして彼女から 採用されたとの報告。やっぱりね。と思いながら「良かったね」と言った。実際に仕事に加わる日までには間があるというので、これまで働きずっぱりだった分のお休みを満喫する良い機会じゃないか。と笑ったら、何をして良いか解らないや。と苦笑いする。今まで限られた時間の中で仕事以外のこともこなしていた。そんな風に分刻みの行動をしてきた人だから、いきなり野に放たれて戸惑っている様子だった。と言っても、ひと月も ふた月もあるものじゃなく、ほんの2週間強くらいの日数なのに 数日経ったら「することがなくなった」とメールが来たりする。本当に仕事人なんだなぁ… と感心するばかりだ。
そんな彼女の転職祝いに今日、数人の友人が集まった。主役を入れてたった4人の面子だけれど、それなりに盛り上がっていた。大げさなことは誰も言わなかったけれど、頑張って欲しいと皆が思っていたと思う。と、同時に自分も頑張らねば… と漠然と感じて 何をしたら良いのか解らない自分に軽い失望感を覚える。目標に向かって進んでいる人は綺麗だ。光を放つ。人はそういう光に惹かれるものだと、最近切実に感じるようになった。女性として 大人として デザイナーとして 人として 彼女はまさに今 光を放っている。尊敬に価する人間だと思う。目映さにめまいを起こすくらいに強く 目に映る光。
そんな彼女を隣にしながら祝宴の最中に考えていたのは、光らない人のこと。光っていない人は他の人の目にどう映るのか。自分が光っていないと気付いた場合、どうすれば光ることができるのか。そんなことを考えている自分は、光りを放たない部類の人間だと薄々自覚していたから この祝宴の場に少しばかり居づらさを感じ始めていた。個人的な意見だが、友人は尊敬できる人でないと関係が続かないと思っている。尊敬と言っても大げさな意味ではなくて、自分にはない魅力が何か一つでもあったら充分それにあてて良いのだ。でも、その何かが一つもなくなってしまったら、相手を見下すようになるのでは? 見下してしまったら、見下されてしまったら それはもう対等な友人関係ではないだろう、と。
往々にして人はマイナスの感情に敏感に反応するものだ。人の好意に気付かないことがあっても、反感を持たれていることは何となく勘付く。反感とまではいかずとも、相手にされていない というのは解るものだ。そんな雰囲気を察知することが増えると 気付かないうちに自己嫌悪に陥るようになる。疑心暗鬼に取り憑かれて悪循環を起こす。どんどん堕ちて止まらなくなる。
どうも最近その傾向が自分にあるような気がする。誰に対しても引け目を感じてしまって、無駄に緊張する。気が抜けなくて本音で話せなくなる。と、言っても嘘を話すのも嫌なので自然と無口になるのだが。 「何か全然喋ってないな私…」と、気付いて初めて「ああ、まただ」と感じるくらい、いつの間にか起こっている現象で。 そいういう雰囲気は周囲にも伝わるらしく、こちらに話を振ってこなくなる。しょうがないな って視線で見られる。「大勢の中にいる時の孤独」というものを感じてしまい、いっそ一人でいる方が良いとさえ思うようになる。でも、人が好きで そばに居たくて 誰かと居ようとしてしまうのだ。どっちつかずなので更に質が悪い。あまり他人を嫌いになることがない代わりに自分のことが嫌いになって、うまくいかないのは自分の所為… なんて。
このままいったら「引きこもり」とかになっちゃうんだろうなぁ… と思えるうちは まだ大丈夫なのかも知れない。現状を茶化して見ることができているうちは、何とかあがこうとしているうちは、ギリギリでもこっち側の人間でいられるから。 それでも そろそろ対応策を見出さないとシャレにならなくなるので、ちょっと身体の中の毒をこんな形で吐き出してみている訳。
いい歳をして自分探しもないものだが、それでも見失ったままでは先がないので。自分街道を爆進している友人を手本に、進む道を見つけないといけないなぁ… と思ってみた。だいたい友人に見下されたりしたら、これほどみじめなことはない。実は自分発見よりもそっちの方に焦燥感を感じているのが正直なところなので、何とかしなくちゃいけない。
もっとも、既に手遅れという可能性がなきにしもあらず なのだが…
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