2006年09月07日(木) |
映画『ユナイテッド93』 |
むむ……。これは。 噂通りにすごい映画でした。 エンドロールを最後まで見ても、立てませんでしたよ。 ちょっと取り乱していて……。
こういった映画の手法を『ドキュドラマ』というそうですが、目から鱗の衝撃です。 実際は、ちょっと字幕が厳しくて、吹き替え版で見たほうがいいな……と思ったり、ハンディカメラの揺れる映像が気持ち悪かったり……で、ケチのつけどころもあります。 が、最後は涙が出てしまいました。 もちろん、ラストは想像でしかなく、実際はどのようなことがあったのかは、わかりません。 でも、おそらく自分もあの場所にいたら、こうだろうってのがあって、苦しくなってきて、もう落ちて全員死ぬことはわかっているのですが、手に汗を握っていました。 派手な演出も、涙を誘うような感動シーンもありません。 登場人物たちの顔と名前は、ほとんど一致しません。 普通の映画の手法とは全く違うアプローチで、リアルです。 飛行機がツインタワーにぶつかる映像は、そのままCNNですし、衝撃的で派手な映像を見たいなら、当時のニュースや解説番組を見たほうがいいです。 当然、想像ですから、創作が入ります。 でも、できるだけ飾らずにリアルに作ろうとする姿勢、そして本当にすごいことは飾らないほうが伝わるってことを、本当に実感しました。
申し訳ないのですが、最近日本で見るドキュメンタリー&ニュースの特集などで、ここまで演出が入らないものを見ない気がします。 現実の話でも、ニュースを見る人が感動するように、いい所取りだったり、脚色したり……。 公式サイトのコメントに『全くの作り物が、本当に起きた出来事を能弁に語る奇跡』(週刊現代編集長)とありますが、まさにその通りだな、と思いました。 そして、この映画はけして早すぎない、というか、人々の記憶が曖昧になり、故人に対して美化されたり、歴史上の解釈がくわえられる前に、映画化されてよかったよ思います。 時間が経てば経つほど、こういったものは真実から遠のいてしまうからです。
ハイ・ジャックされたすべての飛行機に、同じようなドラマがあったと思います。 「身代金で解決されますよ」と言った乗客がいました。おそらく、地上との交信で他の飛行機が次々と重要施設に激突した……と知らなければ、彼らは行動を起こさず、テロリストと政府の交渉を見守ろうとしたことでしょう。 だから、他のアメリカン航空11便、ユナイテッド航空77便、175便の人々も、やはりヒーローなのです。 情報を共有した乗客・乗員は、一致団結して、テロリストの自爆テロを防ごうとする。 それは、唯一生きるための手段でもあり、死を覚悟した、最後の戦いでもあったと思います。
正直、この事件を知らない人(いないよな、まだ……)は、何じゃ? な映画かも知れません。 でも、間違いなく今年一番……の映画かな? って気がしております。
以下、ネタばれ。
えっとですね。 本当にあまりわざとらしい作りがないんですよ。 でも、やはり、こういうところがコツなんだなーと思わせる場面があります。 まず、テロリストたちの描き方ですね。 悪人なんですが、悪人ではなく、自分たちの使命を神に誓って遂行し、成し遂げようとする人間として描かれています。もっとも想像しかない人物だと思うんですが、その分、余計に際立って描かれます。 飛び立つのが遅れてハラハラするところ、若い者は早く実行に移したがり、リーダーは慎重を期すところ、目標物の写真をコックピットに貼るところ、仲間の成功を知り、喜ぶところなど。 そして、乗客の一人一人は、深く掘り下げることがありません。 日常の会話から、きっとこんな人なんだろうな……と思わせるだけです。感動秘話のひとつもないのです。 おそらく実際はあると思うんですよ、ほじくれば。 でも、普通に乗り合わせて知り得るだけの知識に留めています。これが、逆にリアリティを生み出しています。つまり、私たちの日常と全く変わらないのに、乗り合わせたというだけで、テロリストと戦うことになる。 そしてラストです。 テロリストと戦う場面は、本当に緊迫していますが、やや創作的でもあります。 映画のエンタメ面も伺える場面です。が……結局、どうにかコックピットを奪い返したのですが、時遅し……で墜落します。 その最後の映像が、くるくる回る田園風景、そして緑の美しい芝生。 突然の暗転。エンドです。 字幕で黒地に白の解説が流れ、そのままエンドロール。 この衝撃を和らげる余韻も、悲しみもありません。 見ているほうは、実際に飛行機に乗っていて、共に戦い、そして、共に墜落した……。 だからその先、飛行機の爆発も炎も見ないし、泣き叫ぶ遺族も見ないのです。 そんな中に放り投げられてしまって……。 だから、私は衝撃が強すぎて、泣きはらしてしまい、立ち上がれませんでした。
最後は、本当に乗客の一人となってしまう。 それが、この映画のすごいところでしょうね。
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