2006年01月27日(金) |
【オンライン掌編】ファムファタール |
クラブa&cの感想を読んで面白そうだったので、便乗して感想を書いちゃいました。 高遠一馬さん「ファムファタール」です。
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何とも言えない不思議な雰囲気のお話です。 非常に不幸な女性の一人称なのに、この女性が運命を受け入れていて、しかもしたたかで強い(?)ので、悲壮感があまりなく、さらりとリズム感よく読めます。
幸せの味を知らない人は、我が身の不幸を嘆いたりしないのかも知れません。 それが当たり前で、もっと幸せになりたいとも、嘆き悲しむこともない。 絶望を感じたのは、神の子に捨てられた(おそらくほれっぽい軟弱な男なのだろうが)時。だが、それも当然のように受けいれるしかない。 結局、死にかけた時に戻っていくところは、はじめにいたところ。ふりだしに戻る、という延々と輪廻していくような、途切れない運命を感じます。 悲惨ではあるけれど、あきらめきってしまい、自分の不幸を呪わないことは、逆に強い生き方なのかも知れません。
実のところ、私は『パシパエとエキドナ』どころか『ファムファタール』という言葉もあまり知りませんでした。 『ファムファタール』といえば、映画を思い出します。 宝石泥棒をめぐる悪女物語ですが、映像の美しさもあって、好きな映画でした。 調べてみると、ファムファタールは『悪女』というニュアンスで一般的には使われているようです。 でも、単語ごとにバラして調べると、少し違ってきます。 femme は女、fatale は、必然的・避けられない・運命に定められた……という意味。むしろそのイメージをとったのかな? とも思います。
ここまで調べて違和感だったのは、お話の舞台が砂漠やキャラバンが出てくるところで、どうもフランス語らしいタイトルがついているところでしょうか。 特に前出の映画のイメージを持っている人などは、あれ? と思ったかもしれません。 まぁ、中国映画でも『英雄〜ヒーロー』なのだから、気にするほどのことじゃないとは思いますが……。(だいたい私の場合は、調べなきゃ気にもならなかったし)
『パシパエとエキドナ』は、説明が欲しかった気もしますが、どうもあまり頭が良さそうでない女が説明すると、どこでその知識を得たのか……って疑問も出てきますね。 (ちなみに私はネットで調べた。ギリシャ神話に出てくる女性だった) おそらく、男が「おまえは怪物を生み出した女の生まれ変わりだ」と言い含めたのでしょうか?
いつもはこんな読み方をしません。(笑) でも、緋世さんの感想を読み、ちょっと調べてみたくなりました。 ふだんなら、ちょっと知ったかぶりをして、わかったつもりになって、リズムと異国情緒と何ともいえない雰囲気を楽しみ、一番上に書いたような感想ですべてです。 おかげさまで、実によくねられているストーリーだなとわかり、二度美味しくなりました。(^ー^)
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えっと、補足です。 便乗前の感想に、ファムファタールという題名と内容がしっくりこない、パシパエとエキドナの説明がないのでわからない人もいるのでは? という感想がありました。 なので、その言葉にちょっとこだわって感想を書いています。
高遠さんの作品は、ダークでどこか残酷でそれでいて美しい童話っぽい……と同時に、どこかに寓話っぽさがあり、読者に謎解きをさせるところがあるんですよね。 つまり、これは何かの風刺に違いない、何か教訓があるに違いないと、探りたくなる。(笑) きれいだけどきれいだけじゃなく、人間の持っている本質をあからさまにしようとする、気迫を感じるんですよね。 今回の作品は、悲壮でありながらもどこか比較的明るい雰囲気があります。 不思議とさくさく軽く読めるというか……砂漠や青い空、リズム感のよさが、そんな感じをあたえるのでしょう。 また【神の子】という言葉の使い方も、うまいな……と思います。 どのような世界が舞台なのか書かれていませんが、イメージ的にイエス・キリストの宗教画に書かれているころの雰囲気が浮かんでくるのですよね。そこに、神の子……となると、まさにキリストに巡り会ったような、そんな救いを感じさせ、しかも、神の子に捨てられる。 こういった読者のイメージをうまく利用して文章を書くと、長々と説明を書かずにすみし、鮮明に頭の中に状況を思い描かせることが出来るんですよね。
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