2005年07月12日(火) |
【オンライン読書】水那月コウさんの「Wings」 |
サクサクと読みやすい作品で、しかも背景の空の画像もお話にぴったり。 ロマンチックで乙女心をきゅん! と掴むお話でした。 (私が乙女といえるのか? っていうことは問わないでください)
翼人・銀髪・美少女・美少年……すべて私の萌えパターンを踏んでおりました。 また、滅びゆく美しい種族っていうのもツボだし、【美女と野獣】のごとくの束縛型恋愛も好きなんですよね。 切なくも透明感ある美しい物語ですね。
暗い感情にあふれている内容にも関わらず、どろどろした感じがなく、むしろ美しく昇華されていると感じます。 残酷シーンの注意書きがありますが、私の感覚では「かなり痛いのに弱い人でもOK!」いらないかな? とさえ思います。 痛いとしたら……精神的な傷のほうが、ちょっぴりいたいかも知れません。
ラストのフェイド・アウトも見事。 悲しい結末も想像できるけれど、幸せなその後も充分に空想することができる、ここが切なくて、美味しいところでした。 最終からしかいけないSSは、一転してとてもほのぼの。 雨上がりのような爽やかな読後感でした。 この、本編と切り離して、しかも余韻を味わってから味わえる位置づけは、読者への配慮が感じられます。キャラクターも作品も、とても大事にしているけれども、決して独りよがりにならない姿勢は、本当に見習いたいなぁと思いました。
ここから下は、激しくネタばれです。 できましたら、既読の方のみ、お読みください。 中編なので、それほど時間をかけることなく、1、2時間ほどで読めるはずです。
イロウルですが、初めはクローンなのかと思いました。 でも、どうやらロボットに近い存在だったようですね。 思い出したのが、映画【ブレードランナー】のレプリカントです。 知識などはどんどんとものすごい勢いで吸収できるのに、感情の動きが人間とは違い、しかも実体験が伴わないため、不安定で苦しむことも多い。 そして、どうにか自分達の存在の意味を見つけ出したくてたまらない。 また、ティアイエルも遺伝子操作で作られた存在であり、ゼルエルに従うように設定されているとすれば……。
時に人は『恋愛』を作品のテーマにしますが、「愛し合っている」という認識はいったいどこから来るものだろう? などと、真面目に考え込むことがあります。 ヒロインの恋心について「ティアイエルは、所詮、作られたものだからだ……」とか、「ティアイエルにとってゼルエルは、絶対的支配者であるからしかたがない」とも言えるかとも思うのです。 また、ゼルエルにとっても、彼女に対する思いが「ティアイエルは自分の一部から生まれたものである」というナルシズムであるとも、「孤独の埋め合わせ」ともとれます。 でも、たとえそうであったとしても、実はたいした意味のないことなのかもしれません。 大切なのは、今ある『心』ではないかなぁと。 二人がお互いを大事に思い、深い愛情で結ばれていく過程は、読んでいても切なく心地よいものでした。
メインは、この二人の恋愛物であり、非常に堪能できました。 ゆえに、作者の意向とはちょっと外れるかもしれませんが、別の一面の感想を書かせていただきます。 もちろん、一番心を動かされたのは、メインの恋愛であったことを踏まえて。
>「お前のあいつを想う心は愛じゃない」 と言い切られたイロウルの深い絶望と、言い切って笑えるゼルエルの残酷さが印象的でした。
ゼルエルが「服従心を植えつける」ということまでできるのに、それゆえにティアイエルを失おうとしていること。 最終的には、自分の心すら従わせることはできないのだ……ということ。 まさに、ゼルエルとイロエルは鏡合わせの存在であり、やはり似たような面が多かったゆな気がします。 二人の抱く愛も五十歩百歩だったのかもしれません。
イロウルが無限に学習し、知識を広げ、年月を掛けて感情を理解し、心を育てていけたとしたならば……。 神様のように人間を作り出すことはタブー視されやすいです。 ですが、今や人間と人間の作り出したものの差を、見つけることが難しい時代になりつつあります。精巧なロボット・感情さえも持てる人工頭脳・そしてクローンの存在。 多くの「対ロボット恋愛物」同様に、作られた者の悲哀を感じさせる物語でもありました。
中編として書くつもりだった……と、あとがきにありましたが。 私の印象としては、もう少し長くてもよかったのでは? と思います。 サクサクと読みやすいのはいいのですが、物語の背景にある世界観や二人の背景にあることを、もっとじっくりと味わいたかった気がしました。 特に前半は走りすぎて、列車の窓から流れる景色のようにストーリーが流れていったような気がします。 (全然関係ないですが、車窓からの風景もいいものです。) 空・海・大地……どこか、大きな広がりを感じる描写があれば、閉じ込められがちなヒロインとの対比が際立ったかも? などとも思いました。
とても読後感のよい、爽やかで、しかも、萌え萌えのお話でした。 サイトURLはこちら→http://7th-h.raindrop.jp/
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