アルカロイド

あらぶった結果②

先日行った旅行で昔の病気をこじらせまして・・・・・
さいゆうき現パロの悟空＋斉天その２です・・・・・・

注意
・悟空と斉天がそっくりの別人
・斉天おんなのこです
・三蔵と悟空、金蟬と斉天はいっしょにすんでるよ
・いっそ身内向け

・・・・・・・・・無理！という方はまわれ右してくださいね・・・・

びゅう、と少し冷たい風がなぶって首をすくめる。大きなビルと歩道を隔てる植え込みの塀にすわって大通りを眺める斉の顔を、ぷわんと音を立ててトラックのヘッドライトが一瞬照らして離れていく。耳元がわんと鳴って、括った後ろ髪をすっと撫でて左耳につけた。
金蟬と喧嘩した。家を飛び出したのはほんの30分も前のことだが、喧嘩だと思っているのは多分斉だけだ。斉の言い放った言葉に彼は少し目を見開いて、そうして伸ばしてくれた手を振り払って今に至る。
遠い記憶では、もっと若かった彼に怖い顔をされたり、ずっと厳しい言葉をぶつけられたこともある。今よりもう少し物のわかっていなかった頃は、伸ばされた手に縋って泣いたりもしたけれど、斉は年を取ってしまったのでもうその手には乗れない。今ではただ斉の話に返してくれるもっと暴力的な言葉がほしくて時々仕掛けるけれど、年を取るにつれ優しくなる彼は、まだ正解をくれないままだ。
ぼんやりと黄色や赤がひらりひらりと瞬く路面を目で追いながら、彼のきれいな横顔と、まぶしい金色の髪を思い浮かべる。指で触れるとするりとして思いのほか優しい。念入りにトリートメントされた自分の髪をぐるぐると弄びながら、記憶の中からあっけなく取り出す。金蟬のいちいちが、斉の身体にぴったりと寄り添っている。頭を開いたらきっと斉の脳は金色に違いない。ぶわっと排気ガスの音を立てて、トラックが目の前を荒々しく過ぎていく。
「いた」
聞きなれた声に視線をやると、うんざりした顔の悟空がポケットに手を入れて立っていた。斉はそれを一度見て、もう一度通りに目を向ける。帰宅ラッシュを少し過ぎて、車はいつも通り流れている。
「何してんの」
「車見てる」
あっそ、と悟空は興味なさそうな声で返して斉の隣に立った。左側にふっと影が落ちる。
「行くぞ」
「なんでいつも悟空なの」
「知るかよ」
彼は突っ立ったままで、手を引いて立ち上がらせるようなこともしない。ただ本当に面倒臭そうに斉を見下ろしている。
金蟬と喧嘩して逃げる斉を、見つけて連れ帰るのはいつからかずっと悟空だった。もっとずっと昔は、金蟬と悟空の同居人もあちこち回って探してくれたけれど、いつも誰より早く悟空が斉を見つけるので、いつからかあのひとは、家であたたかいお茶をわかしておかえりと言ってくれる役になった。
「たまには金蟬に見つけてもらいたいのに」
ほおづえをついて心から言うと、俺だってそう願うよ、と悟空が心からの声で答える。失礼だな、とわけもなく思うのは、まあ、言わないので許してほしい。
悟空を探したことはまだない。斉が行くより早く、彼の同居人がめんどくせえな、と言いながらそれでも律義に出て行って連れ帰ってくるからだ。行くだけ馬鹿らしい。
寒いんだよ、と言う悟空はパーカーにジーンズのラフな格好で、それは寒かろうと心の中で同意する。でも寒いのは斉も同じだ。ミニスカートの裾から飛び出した膝小僧を、じっと溜まった秋が冷やす。でもだめだ。
「立てない」
「はあ？」
「階段で足ひねった」
右足のかかとをぐっと立てておろすと、ぴりりとした痛みが走る。
「何バカやってんの」
「うるさいよ」
心底呆れた、という声で言われると、自分でもわかっているだけに少し悲しいが、同じだけうんざりする。斉の身体は人よりずっと軽やかに動く。あまりに間抜けだ。
突っ立っていた悟空が一度溜息をつくと、斉の前にきて後ろを向いた。そのまましゃがんで手を裏向ける。
「ほら」
ぱあん、とクラクションの音の合間に悟空が呼んだ。発育途中の彼の背は金蟬の背中よりひとまわりかそれ以上に小さい。
「早くしろよ。おれは帰りたい」
促されて斉はしぶしぶ立ち上がった。そのまま前のめりに倒れると、肩甲骨のほねばった感触が胸の下でする。ほわりと高い体温が伝わる。
悟空は無言で立ち上がると、斉をしょって来た道を戻った。その先を歩道に洩れたヘッドライトの明かりが時々照らす。たん、たん、と安定したリズムで身体が揺れる。
たまには金蟬に見つけてもらいたいのに、ともう一度呟くと、うんざりしたような声が左耳のすぐ下で答える。
「お前あのひとあんま困らせんなよ」
生真面目なその返答にちょっと笑う。彼の同居人に少し似ている斉の金蟬に、悟空はすぐに肩入れしてみせる。ばかだな、金蟬はちょっとくらい困らせたほうが喜ぶのに。
あのひとのこと何にも知らないのね、と当たり前のことを思って斉はさっきより体重を預けた。

2011年10月10日(月)