大森である。
忙しさとはとんと縁遠くなっている今のところ、訪ねる時間もいつもより三十分くらい早くなってしまう。
そうなると、待合室には五、六人はいる時間帯になっている。 そうなると、わたしの後にもひとがいるということで、イ氏と長く話し込むのは難しいのである。
イ氏も最近は小説を読む余裕や気分が持てず、もっぱら評論関係ばかりらしい。 わたしも語れるほどの作品を読んだりしていないので、盛り上がりには欠けてしまう。
しかし、そんなときでも癒しのひとときをめぐんでくれるマコトさんがいる。
「なんだか、私のときに限ってよくないみたいじゃないですか」
え、そんな、何が? よく寝られてないみたいだし、眠気が仕事中にあるみたいだし。 いや、そんなことは。それはきっと。 きっと?
「マコトさんだからと、きっと緊張でドキドキして、ほら、この日の脈拍数だって」
問診票のやや高めのとこを指差す。
「わかりました。伝えておきます」
ぐっとご年配の婦人が担当だった日を指差していた。
違う、違います。 いや、わかってますから。 いや、熟女がタイプとかではなく、いやいや、魅力的じゃないといっているのではなくて。 わかってますから、大丈夫ですよ。
何をわかっているのか。
不安である。
当初、錠数の計算をきっちりしないと気が済まなくて、わたしのざっくり勘定をしゃっちょこばって厳しい口調で詰問してきたりしていたのが、ずいぶん砕けてきてくれたものである。
しかし、それくらいしかオアシス的なひとときがないのである。
舞姫の廉価版が今回から出るようになったのだが、しかしどうにもなんだか違和感を覚えてしまう。
成分自体は変わらないはずである。
そうだ、きっと低気圧のせいに違いない。 そういうことにしておこう。
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