「隙 間」

2010年09月19日(日) 祭り囃子に夜さ来い

祭り囃子が、

ピーヒャララ
ドンドン、ドドン
タカタッタ
ドンドンドン。

んあ、と片目を開け、カーテンをめくり、窓から見下ろす。

子供山車が、綱にひかれて通り過ぎる。

向かいの窓からは、白ゴマのおやっさんが、目を細めて腕組みしながら同じく見下ろしていた。

根津神社大祭が、そして七倉稲荷でも大祭が、とりおこなわれているのである。

山車の時間。

九時を回ってしまっている時間である。

慌てて床に足を下ろす。

ぐぬう。

頭の芯が、鈍い。
昨日は、一度朝食に起きたが十六時間ほど、寝潰してしまったのである。

閉店間際に三省堂へ滑り込み、そしてSMAPの東京ドームコンサート帰りの人波を掻き分け逆流し、ふらふらと帰ってきたくらいしか活動せず、正味四時間であろうか。

それなのに、芯が鈍く重たい。

昼から休日出勤せねばならない。
なぎさくんが、彼は朝から平日通りの出勤で、待っているのである。

舞姫の脱け殻をくず箱に放り込み、立ち上がる。

自販機の前でどれを押そうか躊躇った瞬間に、つと落ちた昨夜を思い出す。

休んでしまえ。
いや、困るのは明日の自分だ。
明日のことは明日の自分にまかせりゃあいいじゃないか。
だからその自分が困ると云っている。
空耳だろう。

そういうわけにもゆかない。

大変なとき、物事を横に広げて並べるな。
縦に並べてみろ。

お国さんに云われたようにする。
あれもこれも、といっぺんにやろうとするから、余計に大変なように感じるのである。

出来ること、やることを、まずはひとつずつ。

モディリアーニをポポイと放り込む。
さあ、ゆこう。

と、勇んで行ったはよいが、大事な入館証をすっかり忘れてしまっていたのである。

なぎさくんの番号を書いた紙があってよかった。

「なぎさくぅん。わし、閉め出されて入れへんねん。開けてくれんかぁ」
「なに。今日、来れないんですか。え、下に来てるんですか」

なにやらテンパった様子のなぎさくんであった。

今度はまじめに、入館証を忘れて入れないので御足労ですが下りてきて鍵を開けて下さい、と頼む。

わかりました、待ってて下さい、とにべもなくブツリと切られる。

「実はパソコンがトラブってて、立ち上がらないんですよ」

なるほど、やや不機嫌だったのはそういうわけか。

なにがジョン・トラボルタ、といいたいのをこらえる。

あのとき、アレしてコレしてそうしたらなんとかなった記憶があるけれど、となぎさくんの背中からつぶやいてみると、

あっ。ホントだ。

とりあえずつぶやいてみるものである。
おかげで無事、仕事ができるようになってしまったのである。

責任感や義務感を背負いなんとかしようと踏ん張っていると、焦り、つんのめり、トットトト、と一本道を駈けるが如しとなってしまうことがある。

ま、なんとかなるし。
なるようにしかならないし、できないし。
いーじー・りびんぐ。

しまりのないわたしの顔を見て、複雑な顔を向け返すなぎさくんである。

ここはちと、らしいことを見せねばコケンにかかわる。

なんとか、しよう。

鷹揚にうなずいておく。
当然意味などわかるはずがなく、まあそうなんですけどね、となぎさくんは首をひねって仕事に戻る。

できるとこからコツコツと。

モディリアーニは、サッサと筆を進めているようである。

筆が止まる前になんとかしなければ、と焦るわたしをなだめすかす。

先日、退職を余儀なくされました。
どんな職種なら働けるでしょうか。

それはこっちが知りたいものさ
遠くで鳴子が鳴っている
明日は我が身か明後日か

これが夢なら立派なナルコ
夜さ来い夜さ来い
夜よ来い

「すんません、お先に上がります」

なぎさくんが、携帯片手に声を掛ける。

「デートか」

すっかりおやぢのひと言である。
ええまあ、と否定しないなぎさくんに、こんにゃろめと唇をねじ曲げてみせるが、余裕の風である。

とっととお帰り。
はい、失礼します。

七時を過ぎた頃であった。
わたしも、そろそろモディリアーニが筆を投げ出す頃合いである。

本来の予定より、四時間も早い。
つまりは、そういうことである。

休んで回復に努めたいところである。


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