「改札を抜けて、階段をのぼる」 終電間際の地下鉄を降りる。人の流れに呑まれながら、改札を抜ける。 「前をゆく人のかかとをみて」 ヒールの音、紳士靴の音、靴音に負けじと、その音の元をにらみながら後に続く。 「顔を上げれば、見知らぬ背中が緩やかに続いてる」 圧迫感からか、顔を上げる。何をいきんでたんだろう。自分もまた、前に続く背中達のひとつじゃないか、何に負けまいとしていたのか。
神田川にかかる橋を渡る。ふと、橋の中程で足を止める。 川面に写る灯かりが、ゆらゆらとにじむ。 幾つもの月のように街を照らしていた。
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