夢見る汗牛充棟
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2000年02月11日(金) 好い匂い

「好い匂い」






小路の途中のお稲荷さんには

大きな木が寄り添っています

鈴の音がして枝と風が戯れている

光と葉は頬擦りしている

五段の石段は静かに

路と空気を繋げています

お稲荷さんと大きな木には

ちいさなひとが寄り添っています

砂利を敷いた土のうえを

ひとが歩いては笑いを刻みます

石段の脇には折りたたみの椅子が

置かれています

春も夏も秋も冬の朝にも

折りたたみの椅子は

おばあさんの場所でした

社の神と木霊とひとつになったように

おばあさんは忙しげな人人と時間を

じっと見ていました

一画は柔らかな空気を着ています

そこの空気は好い匂いです

行きがけにおはようといい

帰り道に疲れたねといい

今日はいい天気だったと呟く

ひとはここで荷物を下ろします

そこは変わりなく思える場所です

ひとはせかせかと去来します

そこは時間の底にある空気です

かなしいけれど安堵するのです







(2002.11.25)


恵 |MAIL