夢見る汗牛充棟
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「好い匂い」
小路の途中のお稲荷さんには
大きな木が寄り添っています
鈴の音がして枝と風が戯れている
光と葉は頬擦りしている
五段の石段は静かに
路と空気を繋げています
お稲荷さんと大きな木には
ちいさなひとが寄り添っています
砂利を敷いた土のうえを
ひとが歩いては笑いを刻みます
石段の脇には折りたたみの椅子が
置かれています
春も夏も秋も冬の朝にも
折りたたみの椅子は
おばあさんの場所でした
社の神と木霊とひとつになったように
おばあさんは忙しげな人人と時間を
じっと見ていました
一画は柔らかな空気を着ています
そこの空気は好い匂いです
行きがけにおはようといい
帰り道に疲れたねといい
今日はいい天気だったと呟く
ひとはここで荷物を下ろします
そこは変わりなく思える場所です
ひとはせかせかと去来します
そこは時間の底にある空気です
かなしいけれど安堵するのです
(2002.11.25)
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