夢見る汗牛充棟
DiaryINDEX|past|will
[35] 夜 2003/02/27(木) 00:35:15
疲れたから苛々するのか とにかくチョコレートを食おう 叫びたい口に濃厚な甘味を 流し込み沈黙しよう
ああ 静かな夜だ
■ 省 2003/03/02(日) 20:53:30
雲の向こうの 空は晴れで良かろうが 雲の向こうの 人が晴れやかだと思う 根拠は何もなかった
■ 夜の食事 2003/03/21(金) 00:48:56
血の匂いもすすり泣きも 海の途中で霧散する今日 戦争を眺めながら食卓に て家族に塩を手渡します 空が繋がっていても地が 繋がっていてもその人の 死の重さを受け取れない のです死臭を嗅がぬ私は 何も学ばないまま知らず 人殺しを続けました地球 の回転の上積み重なる骸 が知人になるまでずっと
■ うすら寒いうた 2003/03/21(金) 19:57:17
あたしを憎まないでおくれよ あたしゃ歯車や螺子に過ぎないのさ 敵だと看做さないでおくれよ あの爆弾はあたしの望みじゃないんだ 殺したくなんかなかったんだよ そんなつもりじゃなかったんだよ あんたが死んだのは遺憾なことだった 壊れたあんたの家族を援助するから 壊れたあんたの街を再建するから 壊れたあんたの碑を建てるから どうかあたしを憎まないでおくれよ ■
空 2003/03/30(日) 16:33:05
空にはなにもない 空しい穴があるばかり 人は空に祈りを唱え 人は空に魂を手放す 空にはなにもない 空しい穴があるばかり 人は空に鏡を描き 人は空を神々で満たす 空にはなにもない 空しい穴があるばかり
■
穴 2003/04/01(火) 21:13:03
しまりのない世界に穴を掘り からだを潜らせ安らぐいのち 四方を硬質の岩石に塞がれ 閉塞の中で深く息するひと かように 固い岩盤に遮られる夢を見て 穴を掘り続ける酔狂なうつわを 他に知らない ■
檻 投稿者:もけ@2003/04/02(水) 19:55:21
遮られないと息をつけぬ 人は鳥になれない 檻から見る魅惑の外のうつくしさ 人は鳥になれない
■
あらた 2003/04/06(日) 00:09:52
裸だった木の枝の先端に あらたな葉が揺れている ひそやかに頼りなく揺れ 決して鮮やかではないし 緑ですらないが ふっとそこに在ることで 盲目の私を嘲笑う
■
誰 2003/04/06(日) 23:17:44
あなたは誰だろう 言葉を綴り わたしの何処からか 地図にもない泉から 透明な水を汲む人よ
■ 夜 2003/04/08(火) 04:03:37
瞼をしたたる夢の屑 目をこらせば 闇に漂う無数の細かい点が 集束しては散り 路上の砂絵描きが描くような かたちならぬ絵をあらわしている 静寂の天井から かすかな鈴の音が降る これが天のうたならば ひとのおとせぬあかつきに 枕辺にたつらしきあなたは さまざまの枕辺でいま 仄かに微笑みながら わたくしの眠りをも 待ってくれているのに ちがいない
■
風 2003/04/09(水) 23:45:58
風が吹く中を歩いていきました 空はあおくあおく あおの何処かから透明な風はきました 世の全ての雑音は轟くうなりに敗北し 耳はただ一つの音にひたされ 貫かれながら空を見上げれば うすべに色の首級をかかげ 誇らかに眼前を横切るものたちは まるでいのちのようでした
■
ふたつ 2003/04/11(金) 21:15:03
世の中には 純血という言葉がある 純潔という言葉がある なぜふたつは同じ音なのか わたしはそれがわからなかったが ふたつの言葉がとても嫌いだ
■ 欺く 2003/04/17(木) 22:09:14
言葉は常に私を欺いている 真摯な顔をして 私は常に言葉を欺いている 貞淑な顔をして お互いが実は憎しみ合っていた 結合者たちのように 確信に満ちた裏切りをしている
■
日々色々 2003/04/23(水) 22:15:11
褪せた朱の屋根の連なり たれ下がる電線に丁子の雀 近くて遠い墨染の山なみ 富士が頂く白練のひかり 灰色の岸壁で佇む鰹船 船底にからまる藍色の海 錆止めの赤茶けたペンキ 色彩無く明滅する鉄塔の群れ 大型クレーンが軋む鉄錆の音 並ぶ工場の気だるい煤と灰 すりガラス越しの溶接の光 風まかせの白煙と雲が漂うまちで 砂色の舗装道路に腹ばいて わたしを見ていた黒い猫 ■ 部屋 2003/04/26(土) 04:17:17
部屋の真ん中らへん 六方に壁がありその一面の上で この人は胡坐をかいている 尻には板の冷たい感触が伝わる 頭上の蛍光灯が観葉植物で 淡い影をこさえている おだやかな作りものの空気が 肺を行き来するが 外は雨風が激しく鳴っている 濡れるのを厭うように この人は内側でじっとしている 絶え間ない雨粒が 太鼓の皮を叩くように 天井や窓や壁をくまなく叩いている 壁どもは雄々しく立ち向かっている 雨と風に怖じているからか この人は部屋の中で 耳をすましてじっと動かない 外の様子をうかがいうかがい 雨が止み風がやむまで 胡坐をかいたまま動かない
|