★悠悠自適な日記☆
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夜の9時頃ビルから外に出ると、外はしとしとと雨が降っていました。傘を差して私は夜の三宮の街を歩いていました。
雨の音は街の雑音を消し、かといって雨の音が街の音を邪魔することもなく、そこには確かに音が存在しているのに、私は極めて真空状態に近い感覚を覚えました。真空状態では音は伝わらないと昔理科の授業で習ったけど、その理論が働いているのか、待ち行く人々が、少しスローモーションがかかったように見えました。足音があまり聞こえないからかもしれません。
夜の街と雨の音が織り成す真空の世界。それは映画のワンシーンの様にドラマティックで、だけど無機質で…。気が付けば、私は少し人混みから離れ、歌を唄いながら歩いていました。タイトルはなく、ただ自然に浮かんだ旋律を、駅に着くまでずっと、信号が赤になっても止めることなく唄い続けました。
真空の街で私の声は外に伝わることはなく、自分の耳にしか入って来ません。街は賑やかに動いているのに、耳に入るのは私の声だけで、それがどうしようもないくらい心地よく、思わず傘を放り投げて大声を張り上げたい衝動に駆られました。
家に着いた頃には、風が強くなっていて、その真空状態はもうどこにも存在していませんでした。
もしあの時ウォークマンを聴きながら歩いていたら、私はこの貴重な体験を見逃してしまうところでした。
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