Leonna's Anahori Journal
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2005年10月16日(日) 大きな手の上の、温かい心臓

 
父に会いに横浜へ向かう途中、電車の中で『ヤスケンの海』を読んでいたら、突然、吉田健一のエピソードに出くわした。

村松友視がヤスケン(故・安原顕)のことを書いたこの本は、そうでなくても(何故か)私の涙腺に揺さぶりをかけるので、たまに呼吸を整えながら長時間かかってここまで読んできたのだが、まさかこんな不意打ちにあうとは思わなかった。

村松友視と安原顕は、昔、中央公論社で同じ雑誌『海』の編集部にいた同僚だから、担当編集者としてけっこう多くの著名な小説家と関わっている。それで、たとえば武田泰淳、百合子夫妻あたりならば何がどう語られようと覚悟は出来ていたのだが、吉田健一とは…。これは盲点だった。うっかりしたよ。

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話は、いかにも吉田健一だなぁという、氏のちょっと浮世離れした生活態度について触れたものだったのだが、これに、チマリス感動してしまって。吉田健一って、誰の口から語られても“同じ一人の人”なんだよなぁ。よくある“意外な素顔”みたいな部分は見あたらなくて、どこを切っても吉田健一なのだ。

でもそれは、私にとっては、ただ裏表のない人だったということを意味しているのではなくて。本当にあんなにスタイリッシュで、しかし世俗的な意味では不器用きわまりない生き方を通していたのかと思うと、アタシはもう泣けて泣けて…。でもそれは悲しい涙じゃなくて、ほわぁっとした勇気がわいてくうような涙なんだなぁ。

まるで、私の心臓が大きな温かい手の上に載せられていて、その手がゆっくりと心臓を左右にゆすっているような、そんな感じだった。

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この本、欧州に住む吉田健一好きの友人のところへ持って行くことにしよう。来月には会えるから、それまで具体的なエピソードには触れずにおこう。





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