Leonna's Anahori Journal
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2002年12月12日(木) 家が建った

父の八十回目の誕生日。
プレゼントとケーキを持って会いに行く。

ちなみに父の誕生日はレイモン・ラディゲの命日と一緒だ(同年同日)。べつに意味もオチもない、単なる事実というやつだけれども。

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今日、横浜から家へ帰る電車のなかで長らく読みかけになっていた吉田健一『絵空ごと 百鬼の会』を読み終えた。

『絵空ごと』の終盤、戦後焼け跡になった麹町に、実際に洋館を建てる相談が始まるあたりから急に話がそれまで以上に生き生きと感じられるようになり、読み終えるのが惜しいような気持ちになりつつ、凄いスピードで頁をめくっている自分がいた。面白くて目が本に吸い付きそうになっていたのである。そうして、とても穏やかで静かな場面なのに胸がわくわくするのが不思議だった。

麹町に洋館が建ったとき、お披露目に呼ばれた外国人の男が暖炉の上にかかっている『シテル島に向っての船出』という絵(の、写し)のまえに立って「久しぶりだな、」という場面がある。この「久しぶりだな、」という言葉を私は、私自身の言葉だと思って読んだ。ああいうときに発する言葉として、他のいかなる言葉というものも考えつかない(あり得ない)、と思う。

ということはどういうことかというと、私の頭の中にも“洋館が建った”ということなのだ。これが私は、本当に嬉しかった。まだこれから死ぬまでの何年間かの間に、いまはまだ開けることの出来ないその邸の部屋の扉を開けて、いまはまだ知らない何ものかを見聞きすることが出来たらいいな、素敵だなと思う。

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いつも本の頁の更新を楽しみにしてくれている友人がいて、なのに(気持ちはあるのだけれど)ずっと手つかずになっているので心苦しい。
読み終わったものからすぐに感想をアップするような形式を作ろうと思っているところです。

今日のジャーナルは半ばその友人宛の私信のつもりで書きました。(私に吉田健一を教えてくれたのは彼女だから)それで、そのために少しわかりにくい書き方になっていたとしたらゴメンナサイ、です。
   
   


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