独り言
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2006年07月22日(土) テリーデイズというBandのその後について

李 亜龍

消息及び生存の有無も不明

事件直後警察当局は亜龍のアーティストとしての知名度を一応認識しており放っておいても一般人からの通報ですぐに足が着くだろうと踏み全うな捜査を行っていなかった
しかし思っていた様な有力情報が得られず事件発生から一週間後になって初めて正式な捜査本部を設置し本格的な捜査に乗り出すのだがそれでも亜龍の足取りは掴めず今日に至る

警察の内部情報に詳しいある人物の話によると亜龍の消息に関して警察が手にしている確実な情報はたった一つしかないそうでその情報とはあの『フリーク・カンパニー』の店員から得られたものだという
その内容とは事件発生の翌日4月9日朝早くに亜龍がそれまでフリーク・カンパニーで購入した蔵書の全てを店に持ち込み買い取ることを強く要求してきたというもので余りの執拗さに仕方無く店員が要求に応じると亜龍はそれで手にした金で『世界昆虫大百科・デラックスカラー版』というアメリカ製の本を購入し店を後にしたという

捜査に際して亜龍の日記も重要な手掛かりとして考えられたが当然事件当日の4月8日の記述を最後に日記は終わっている
ちなみにその4月8日の記述を見てみるとそこにはただ一言
「全てフィクションだ」
とだけ書かれている





スージー・キュー

亜龍の失踪により事実上テリーデイズが解散されると彼女は一旦古巣である蛇孔に戻るが表現者としてある程度確立された自分の立場を無駄にしたくないと考え個人で人権擁護団体『S.H.B』を設立している

この団体は当初テリーデイズに影響を受けてその後中国に数多く誕生した通称『テリーキッズ』と呼ばれるロックバンド達の作品や発言を擁護する目的で設立されたのだがこの団体が上記の目的で活動する事は一度として無く現在はスージー・キュー自身も含めた同性愛者達の社会的地位獲得を目的として運営されている

あの事件の影響も相まってアルバム『Stend』は更に爆発的に売れ続けそれ以降ロックミュージックは排他されるべきものではなく中国ショウビズ界のメインストリームのど真ん中に堂々と鎮座出来る程に強大な存在となっていた
スージー・キュー曰くロックバンド達の言動や楽曲が過激になればなる程レコードのセールスは伸びていくという寸法だったのでそこにはもはや人権を擁護する必要性等無かったのだという

『S.H.B.』は儒教を重んじる中国でそれまでタブー視されていた同性愛という問題を正面きって堂々と世論に訴えかけるという非常にスージー・キューらしい恐れを知らぬスタンスを用いて活動されておりその積極性はそれまで暗幕に身を隠していた同性愛者だけでなく一般の人達の共感も集め今日ではあの『リバティー・ポイント』と肩を並べる程に大きな団体へと成長している

ちなみに団体名である『S.H.B.』とは亜龍がテリーデイズ結成以前路上で独り歌を歌っていた時に必ず着用していたTシャツの胸に書かれたメッセージの頭文字を取ったものだという




ジョージ

テリーデイズ解散後約一年間に渡りあの事件の後遺症によって入退院を余儀なくされる
体調が完全に良くなるとテリーキッズの一つである『ランチャーダンク』というバンドに加入しドラマーとして活動するが半年で脱退

その後彼は亜龍が書いた曲の中で唯一中国語詞を持つ未発表曲『JHOME』に影響を受け単身日本へと渡っている

この『JHOME』は亜龍の変質よりずっと以前に作られた曲で詞の内容は亜龍が母から伝え聞いていたのであろうまだ見ぬ日本という彼にとって心の故郷とも言える国に対し想いを馳せたものとなっている
その曲を亜龍はアコースティックギターを用いて弾き語りそれを自宅でカセットテープに収録しスージー・キューとジョージに渡していたのだ

スージー・キューにこの『JHOME』について聞いても「そんな曲もあったかも知れないわね」という程度の印象しか持っていないがジョージにとっては唯一歌詞が理解出来る曲という事もあり特別な思い入れがあった様だ

ジョージは今でもそのテープを持っており特別に聴かせてもらう事が出来たのだがこの『JHOME』には何とも理解しがたい箇所が一つ存在する
それとは曲のオーラス部分で「再見」という言葉が16回にも渡りリフレインされている箇所についてなのだがどう考えてもこの「再見」という言葉は本編の詞の内容とは全く結び付かずまるで後から付け足した別の曲の一節であるかの様な違和感を生み出している

ジョージ曰くこの「再見」は亜龍からのメッセージで「日本に行けばまたアルに会えるような気がして」彼は日本へと渡ったのだというが残念ながらまだ亜龍には会えていないらしい

現在彼は日本で全く無名の3ピースバンドに在籍しドラムを叩いているのだが以前の様なピエロのお面はもう着けていない

ジョージの熱狂的なファンで彼のドラミング見たさにわざわざ日本まで赴いたある人物の話によると奇しくもそのバンドはテリーデイズと同じベースボーカルスタイルでフロント2人は亜龍とスージー・キューにとても良く似た佇まいを持っているが彼等並の天才的な要素は感じられなかったということである


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